この世界のどこかに存在して欲しい日常。『月曜日は2限から』

レビュー

キャラのやり取りを、ずっと見ていたくなる。そんな物語に出会えた時、とても幸せな気持ちになれる。
『月曜日は2限から』は、キャラの会話劇を楽しめる作品だ。キレのあるやり取りに、自然と口元が緩んでしまう。作中で特別変わったことが起きるわけでもなく、誰もが経験したようなイベントなのに、登場するキャラは思わず眩しさを感じてしまうくらい、楽しそうに見えるのだ。

月曜日は2限から
©斉藤ゆう/小学館

怠惰なヒロインに適応してしまう主人公

主人公の居村は、進学校に通う一般的な生徒だった。「だった」と過去形で書いたのは、もちろんそうではなくなったからだ。遅刻や不要物の持ち込み等、進学校に似つかわしくない咲野の面倒をたまたま見てしまったことで、すっかり懐かれてしまう。結果、彼は風紀委員会や教師からも目をつけられるようになってしまうのだ。

しかしこの居村くん、適応力も非常に高い。最初は持て余した咲野に対しても、彼女の特性を理解した上で、的確にツッコミを入れられるようになってしまう。基本的には咲野が振り回すような構図だが、決して彼はやられっぱなしではない。2人でお出かけをしてちょっと良い雰囲気になろうとも、気だるげに「お前のこと好きになりたくないな」という強烈なコメントをヒロインに浴びせたりする。凄いこと言うなこの主人公、と感心してしまうくらいだ。もっとも仲が良いからこそ言える言葉であり、悪友という言葉がふさわしい彼らの関係を表している。

生産性のない無駄口が、どうしようもないくらい楽しい。2人とも表立って言うことはないけれど、会話を楽しんでいることは読んでいて明白だ。それが随所に伝わってくるから、思わず声に出して笑ってしまいそうになってしまう。

悪友と戦友と織り成す三角関係

居村にとって咲野が悪友ならば、風紀委員長のちーこは間違いなく戦友だ。ちーこは風紀委員長で規律を愛する少女であり、咲野とは対極にあたる存在。ちーこにとって咲野は早急に更生させたい存在なのだが、いつも手のひらで転がされてしまう。そんな彼女が、咲野をある程度コントロールしている居村に助けを求めるのは、至って自然なことだろう。

居村とちーこが手を組むことで、咲野の学校生活もいくらか改善されたのは事実だ。だがそれ以上に、ちーこが咲野に甘くなった方が強いだろう。なにせちーこは、その規律を重んじる性格から友人が少なく、気にせず接してくれる咲野に友人としての強い気持ちが芽生えてしまったのだ。咲野に手をやきつつも、それを楽しんでいるちーこが微笑ましい。
自分に甘えてくる人間を、彼女は拒めないのだ。咲野もそれを分かった上で、ちーこをからかう。仲良しっぷりに、ニヤニヤが止まらなくなる。

3人一緒にいる時間が多くなると、当然男女関係も気になってくる。居村くんは飄々としているが、男気のあるタイプでもある。対人関係が乏しいこともあってか、段々とちーこは居村くんに惹かれるようになっていく。誕生日プレゼントを居村くんに渡した時のちーこの慌てっぷりは、ラブコメの神様が降臨していたと思うくらい頬が緩んだ。

悶えてしまうのは、3人とも、一緒にいる時間を大切にしたいと思っていたことだ。誰かが踏み込んでしまったら、その楽しい空間は崩れてしまう。恐らく、それを1番理解していたのは咲野だろう。ちーこの頬を触りながら、「もう少しだけこのままがいいなあ。」と言った咲野の言葉は、楽しい時間が永劫に続くわけではないことを示唆しているのかもしれない。

作中に何度か、より深い関係になりそうなシーンがある。しかしなるべく長く、いつもの3人でいられる時間を過ごしたいという思いをそれぞれが持っていて、それが非常に甘酸っぱい展開を生んでいるのだ。

まとめ

彼らが過ごした学園生活は、恐らくありふれたものだ。体育祭、修学旅行、文化祭……変わったイベントと言えば、居村と咲野の2人で咲野の祖母宅に遠出したくらいか。それくらい一般的な学園生活なのに、憧れてしまうくらい楽しげに見えてしまう。それは部活や恋愛のような分かりやすい形ではないけれど、この物語が間違いなく、彼らが心から望んだ青春だからこそ、キラキラと輝いているのだろう。
こんなに楽しそうな日常が、存在する世界であって欲しい。思わずそんな風に願ってしまう。

月曜日は2限から/斉藤ゆう 小学館