温かい料理と温まる心。みんなの成長記録『甘々と稲妻』そしてお米の話

レビュー

まずは我が家のお米自慢をさせてほしい。
我が家のお米は美味い。美味いんだぁ。
というのも叔父が田んぼを持っており、2ヶ月に1回ほどそこで作ったお米を私の実家経由で送ってもらっている。お米の仕送りだ。
主夫として家計を預かる身、金銭的に助かるのもありがたいし、さらに美味い。これ以上のことがあるか?いや、ない。

日本人の主食であるお米。説明するまでもなく、どんなおかずにも合う存在。
日本の食の歴史をその身ひとつで支え続けてきた。尊い。
私がお米に対して抱いているイメージは、屈強で寡黙な男性である。かっこいい男だ。いや「漢」と書いて「おとこ」と読もう。人生の目標にしたい。私もそんな漢になりたい。

今回ご紹介させて頂く、父と娘の関係性、成長を描いた料理漫画『甘々と稲妻』の第一話は、お米が主題だ。
いやそうなんですよ。お米って大事なんですよ、と第一話を読んだ時、私は膝を打った。

甘々と稲妻
©Gido Amagakure/講談社

高校教師、犬塚公平は妻を病気で亡くし、現在は娘のつむぎと2人暮らし。
仕事、家事、子育てに追われる毎日。料理は全くできず、コンビニ弁当や外食で済ませる日々を送っている。
ある春の晴れた日、つむぎと2人で花見へ行くことに。とは言っても桜の木の下でごはんを食べるわけでもなく、桜を見ながら散歩、程度のもの。
そうして歩いているうちに、1人涙を流しながら弁当を食べている少女に出会った。

少女は母親に花見をドタキャンされたので、1人で来たという。それで泣きながら弁当を食べていたのだ。
が、つむぎはそんな話をスルーして、弁当の中身に夢中。
空の弁当箱を申し訳なさそうに見せた少女は「飯田小鳥」と名乗り、母親が料理店を営んでいることを告げ「今度食べにきてくださいね」とお店の名刺を渡すのだった。

後日、仕事が終わり帰宅した公平。部屋に入るとそこには、圧力鍋の通販番組をテレビにはりついて見ているつむぎがいた。
画面の向こう側ではお肉がおいしそうに調理されている。そして、つむぎは公平に「ママにこれつくってっておてがみして」と言うのだ。
買ってくるコンビニ弁当、外食ばかりではなく自炊をするべきではないかと感じていた公平は、そのつむぎの姿を見ていてもたってもいられなくなる。
「娘においしいごはんを食べさせたい」その一心で、小鳥からもらった名刺を頼りにつむぎを連れて外へ出た。

まだお米の話には辿り着いてないが、ここで先に私の家庭事情をひとつ。
私も公平と同じく、一児の父親である。
そして『甘々と稲妻』の物語は、つむぎの成長とともに進んでいく。
それは人間性の話ではなくて(いやもちろんそういう成長もあるけど)1巻の時点では幼稚園に通っているつむぎが、小学生になるのだ。
その光景は、まるで我が子を見ているよう。

正直に言うと、この『甘々と稲妻』は私より嫁の方が大ファンだ。
嫁がアニメからハマって漫画を買った。それを追いかけるように私も読んだ。ちなみに子供も好きでよく読んでいる。
このレビュー記事を書くことが決まった時、そんな大ファンを差し置いて『甘々と稲妻』の魅力を語るのはおこがましいのではないかと考え、嫁に「甘々と稲妻の面白さは何?」と聞いてみた。
すると「つむぎちゃんが成長していくところがうちの子の姿、成長とかぶる」という回答。
上に書いたように、私も同意見だ。
我が子がいるからこそ、ハマってしまうのかもしれない。ぜひともお父さんお母さんに読んで欲しい漫画である。
自分語りで申し訳ないが、うちの子もつむぎちゃんのようにまっすぐ育ってくれたら、と思う。そういえば天パなところもかぶる。

『甘々と稲妻』の話に戻そう。
店に着くとそこには制服姿の小鳥が待っていた。普段は母親が切り盛りしているが、今日は用事でいないそう。
諦めて他の店を探そうとする公平だったが、小鳥に引き止められる。
上のコマにあるように「私だってお米くらい炊けます!」と。お米が出てきましたね。
そうして、つむぎに押される形で、小鳥の炊く土鍋ご飯を食べることに。

しかしなんだか、小鳥の挙動が妙。
無言のまま米を研ぎ、終わったら席を離れてしまった。
あとを追うようにトイレへ向かう公平。すると母親に助けを求めて電話をしている小鳥の姿を見つけてしまった。

そう、小鳥は料理が得意ではない。
「ぜひ来てください」と紹介してしまった手前、来てくれた相手を無下にはできない。
でも料理ができる母親はいない。
精一杯の強がりで、公平とつむぎに土鍋ご飯を出すことにしたのだ。
優しい。小鳥ちゃんは優しいなぁ。

なんとか上手く炊き上がったお米。粒立ちが良い。画面を通して湯気と香りが広がってくるよう。
お米っておいしいですよね。いやほんとに。
私は白米だけでいけます。おかずなくても全然。日本の料理のメインストリームをひた走ってきた白米さん。さん付けで呼ぼう。

料理漫画で最初に登場するのが土鍋ご飯というシンプルさ、この地に足が着いている感じが私はうれしかった。
そうだよね、白ご飯だよね!まずは!この記事の冒頭で言った「お米って大事なんですよ」はそこにかかってくる。
料理が苦手なキャラクターたちを主役に置いたからこそ出来た演出だろう。

今回は第一話に焦点を当ててご紹介してきたが、もちろんこのあと続いていく話では色々な料理が登場する。
そして公平と小鳥、つむぎがだんだんと料理の腕を上げていく。
つむぎの成長もありつつ、公平、小鳥の成長も見守れるのだ。
その様子が微笑ましくて、やはりうれしい。ハートフルな気持ちで見ていられる。
彼らが食べる温かい料理の熱が、こちらの胸まで温めてくれる。

甘々と稲妻/Gido Amagakure 講談社