ありふれたB級グルメも、セレブにとっては珍しいごちそうになる『集え!庶民めし部』

レビュー

おいしい料理の条件って、なんだろう。

材料の質や鮮度、作る人の腕前、色々あるが、「安さ」もそのうちのひとつだと思う。どんなに味がよくても、値段が高すぎたら「おいしいけど、値段の割には……」と考えてしまうはず。

だとすると、ごく一部のお金持ちしか食べられない高級フルコースより、一般人でも気軽に食べられるB級グルメの方が、「おいしい料理」と言えるのではないか――?

そんな仮説を立てて庶民めしの研究に勤しむセレブ男子と、彼の道楽に巻き込まれる庶民女子がおりなすグルメラブコメディ。それが、今回ご紹介する『集え!庶民めし部』だ。

集え!庶民めし部
©もすまる/あおはる/libre

君(の庶民力)が欲しい

物語は、主人公の伊藤結(いとう・ゆい)がある日、校内でも有名な超セレブ・鷹司芳光(たかつかさ・よしみつ)に見初められるところから始める。

手を握り、目をじっと見つめながら、「君を待っていた」「俺には君しか居ないんだ」と熱い告白。

すわ、少女漫画的な展開か!? と思いきや、芳光が目をつけたのは、結の圧倒的な庶民力の方だった。どれくらい庶民かというと、各ページの1コマ目ではだいたい握り飯を頬張っているくらい。


 

芳光がいつも食べている料理は、最高級の材料を使って一流シェフが腕をふるった贅沢なものばかり。しかし、それらはすべて誰かが勝手に用意したもので、自分が「おいしそう」と思って選んだわけではない。

対して他の学生たちは、混雑している購買や学食にわざわざ並び、コロッケパンやら牛丼やらやたら茶色い食べ物ばかり買っている。けれど、友達と一緒に食事を摂る彼らの表情は笑顔にあふれている。

この差はなんだ? 料理のおいしさとは、味や見た目だけでは決まらないのか? 答えを探るために芳光は「庶民食(めし)部」を立ち上げ、結とともに庶民めしの研究に邁進していく。

チープでもおいしいのではなく、チープだからおいしい

「庶民めし部」と名乗るだけあって、作中に登場する料理は、どこでも買えたり家ですぐに作れたりするものだけで統一されている。

購買のコロッケパン、学食のカレーにカツ丼、縁日のイカ焼きに焼きとうもろこし、そして庶民めしの代表選手(?)卵かけご飯……。全体的に茶色や黄色が多め。

これらの料理は、私たち一般人にとっては身近すぎて、食べるときにいちいち「どこがどうおいしいのか」などと考えたりはしない。だが、初めて食べる芳光は一口ごとに目を輝かせ、懇切丁寧に食レポをかましてくれる。

グルメ漫画は、「何を食べるか」はもちろん、「誰が食べるか」も重要視されるジャンルだ。サラリーマンや女子高生がB級グルメを食べるだけの作品なら、もう描きつくされていると言っても過言ではない。

本作は、「セレブ男子」というフィルターを通すことで、ありふれた庶民めしの新たな魅力を描き出すことに成功している。

いまのままでも充分おいしいのだから、材料を豪華にしたらさらにおいしくなるのではないか?

そう考えた芳光は、財力に物を言わせて度々セレブ流のアレンジを試みる。たこ焼きの中にウニを入れてみたり、卵かけご飯のトッピングに明太子を丸ごと乗せてみたり。

パクっと一口。そりゃうまいに決まっている。だけど、なにか違う。

シンプルだからこそ飽きが来ない。チープでもおいしいのではなく、チープだからおいしい。それが庶民めしなのだ。

芳光と結の庶民めし研究に終わりはない。目玉焼きに何をかけるべきかという議論に、永遠に結論が出ないように……。

ラブ米……もといラブコメ成分も

本作のもうひとつの見どころは、結と芳光の恋愛模様。

芳光の思いつきに振り回されてばかりの結だが、彼のこと自体は別に嫌いじゃない。むしろ、顔はイケメンだと思っているし、庶民めしが好きという共通点もある。

一方、芳光は。おにぎりを口いっぱいに詰め込む結を「かわいい」と言ったことはあるものの、あくまで小動物的な意味で。庶民めし部に勧誘した理由も「庶民だから」だし、そもそも結を女性として認識しているのかどうかも怪しい。

ストーリーが基本的に結の視点で進んでいくため、芳光の真意は終盤まで明らかにならない。グルメ要素の隠し味として描かれる、ふたりの関係性にも注目してほしい。

全1巻の4コマ漫画なので、スナック感覚でサクサクと読める。ボリューム満点な巷のグルメ漫画に胃もたれを起こしている方は、口直しに本作を手にとってみてはいかがだろうか。

集え!庶民めし部/もすまる あおはる リブレ