圧倒的な才能を持ったクラスメイトが有名になっていく。自分には才能があるのか、夢をかなえられるのか!?『アオイホノオ』

レビュー

どんな有名人にも無名の時代はある。
 
そして、どんな人だろうと悩み・苦しみ・ときには笑い、悪戦苦闘するときがある。
 
それを人は青春と呼ぶのだと思う。
 
『アオイホノオ』はクリエイターとしての主人公の青春が詰め込まれた作品だ。
 
圧倒的な才能を持つクラスメイトとの比較に挫折・葛藤していく主人公の気持ちが痛いほどわかる。

アオイホノオ
©島本和彦/小学館
 
1980年代初頭。大阪にある大作家芸術大学映像学科1回生の焔燃(ホノオ・モユル)(以下モユル)は、「漫画家になる!」という熱い情熱と野望を胸に抱いて大学生活を過ごしていた。
 
自分の実力には根拠のない自信を強く持っているが、アニメ業界にも興味があり自分の進
 
むべき道を模索中のモユル。
 
個性的で才能あふれる同級生を勝手にライバル視したり、その実力に打ちのめされたりと心を揺さぶられながらも、自分の信じた道を歩もうとしていた。
 
この作品の時代設定は、高橋留美子やあだち充といった大御所漫画家たちが活躍していた頃。漫画誌を発行する出版社も、新たな才能やジャンルを発掘するべく、広く門戸を開いていた。
 

 

作者の同級生は庵野秀明

 
この作品は作者の島本和彦さんの大学時代の実体験をもとに作られた作品でもある。
 
島本和彦さんの同級生には、「新世紀エヴァンゲリオン」「シン・ゴジラ」の庵野秀明監督、アニメ制作会社・ガイアックスの立ち上げを行った山賀博之さん、赤井孝美さん、アニメ制作会社・ボンズの南雅彦さんなど、業界華の世代が集っている。
 
大学時代当時の庵野秀明監督がどんな人物だったかというと、やはり当時から図抜けて圧倒的な才能の持ち主だったようだ。もちろん本作には全員実名で登場してくる。
 

 
モユルの所属する映像学科の課題はもちろん「動画作成」。
 
ビデオ、アニメーション、好きなものを作っていいものの、道具すべてにお金がかかる。
 
今のようにiPhoneで高品質な動画を作ることもできなければ、フリーのアニメソフトもない。そもそもパソコンがない。そんな時代の大学生が映像制作をするには、手作業の人海戦術で映像を作るか、工夫を凝らすしかなかった。
 
庵野秀明監督は大好きなウルトラマンの創作動画を作るために、お金のかかるウルトラマンスーツを使うことなく、胸に3分タイマーを装着した自分だけでウルトラマン役を演じきる。誰もが「ウルトラマンスーツを用意しなければウルトラマンはできないなあ」と考えていた時代。映像はありものでも、本物の音を挿入することにより、誰もが知っている世界観で楽しむことができたのだ。
 
誰も考えつかない奇策での攻め方にモユルは「やられた!!」と衝撃を受ける。
 
モユルがショックを受ける・・・。つまりは当時の島本和彦先生が天才を目の前にして衝撃を受けたことが、絵からずんずんと伝わってくるのだ。
 
しかしモユルは漫画家志望。同じ学科の同期とはいえ、映像業界志望の庵野秀明監督とは夢が違う。
 

 
漫画家になる夢を持っているのに、モユルは漫画以外のことに勢いを出しがちだ。
 
わかる。とてもよくわかる。
 
筆者の私もテストの前日に急に模様替えをしたくなったり、掃除をしたくなったりするタイプだ。追い詰められるほど、現実から目をそらすために逃避したくなる。
 
だからこそ本当にやるべきことを後回しにしたり、少し手をつけてはまたやらなくなってしまうモユルの行動と自分が重なってしまい、共感してしまう。
 
漫画家・島本和彦さんと、モユルと、まだ10代だった自分。
 
誰もが経験する自意識過剰な時期。恥ずかしい経験。厨二病。
 
休みの日にこっそり読んで、恥ずかしさを噛みしめたい漫画だ。
 
 
アオイホノオ/島本和彦 小学館