「こんな兄さえいなければ……」兄と妹、傷だらけの家族再生物語『ふつつか者の兄ですが』

レビュー

私事で恐縮ですが、わたしには「コミュ力高めの爽やか痩身スポーツマン」な2歳上の兄がいます。
 
そんな兄のおかげで、中学時代は「アイツの妹」として先輩にかわいがられたり、同級生に羨ましがられたりしたものでした。兄、その節はありがとう。
 
そんな経験もあり、「特に思春期において、兄弟の存在は少なからず自分の学校生活に影響を与える」と感じています。

では、もし「元ヤン&引きこもり」の兄がいた場合。
果たしてその妹は、どんな青春を送ることになったのでしょうか。
 
『ふつつか者の兄ですが』には、そのえげつないアンサーが詰まっています。
 

ふつつか者の兄ですが
©Kinoko Higurashi/講談社
 
主人公の志乃は、高校2年の今どきな女の子。
 
高1のときに今の学校に転校してきて以来、友達との遊び、バイト、そして恋にと忙しく充実した毎日を過ごしています。
 

 
しかし、志乃には「ある重大な秘密」があります。
 
その秘密のおかげで、友人から放課後ファミレス、バイトの同僚に退勤後のカラオケに誘われても、いつも泣く泣く断らなければいけません。
 

 
志乃はひとりっ子。
だから、親に大事にされすぎて夜遊びができない。
 
それが友人たちの認識です。
 
が、実際には。
 

 
志乃には、引きこもりの兄がいます。
 
「引きこもりの兄がいる」
 
その事実は、志乃の過ぎ去りし中学生活に暗い影を落としました。
 
兄のいた中学に通った志乃は、兄のせいで後ろ指を差されてなんとも居心地の悪い3年間を過ごしたのです。
 
志乃が中3のとき、兄を新しい環境にうつしてみようと、父親と兄が家を出る話が出ます。
 
地元でこのまま進学など死んでもイヤな志乃は、家事手伝いを条件に、父親についていくこと、そして転校を許可されました。
 
兄の存在を隠しながら新しい環境を楽しみ、無事に明るい青春を取り戻していたのです、が。
 

 
満足に遊べず、家事に抜け漏れがあれば父親に「バイトを辞めなさい」と詰められる。そして、ずっと家にいるはずの兄は何もしない。
 
「こんな兄ちゃんさえいなければ、私の毎日はもっと輝くのに・・・」
 
自分の人生をことごとく振り回す兄に憤り、ガマンの限界が近づいた、その時でした。
 

 
ずっと部屋にこもって家族と顔を合わせてなかった兄・保(たもつ)が、突然部屋から現れます。
 
そして。
 

 
突然の、脱・引きこもり宣言です。
 
志乃の青春、ふたたび兄のおかげで大ピンチ。
 

空回る兄、イラ立つ妹

 
ひとりっ子だと友人たちに嘘をついている志乃。
 
兄の存在を隠していたこと、しかもその兄が引きこもりだったこと。
明るい高校生活を守るためにも、この事実だけは絶対にバレてはいけない……!
 
そんな志乃の心配をよそに、保は悪気なく、むしろ志乃の力になろうと頑張っては空回り。順調に彼女の日常を侵してしまいます。
 

 
風邪で志乃が学校を休んだときは、家に荷物を届けにきた友達に保が対応。
 
志乃、顔面蒼白。
 

 
バイトで志乃の帰宅が遅くなると、バイト先まで迎えにくる。
 
そんな保の行動すべてが、志乃にとってはたまったものではありません。
 

 
病的に不器用ながら志乃を大切にしようとする保と、そんな無垢で無神経な保の行動にイライラが止まらない志乃。
 
関わるほどに、ふたりは互いを傷つけてしまいます。
 

兄弟の関係が少しずつ変わり始める、が……

 
しかしこの保、ビックリするくらい挫けません。
 
「兄貴ヅラしないでよ」と突き放された翌々日に、志乃にお弁当を作ってあげる鋼のメンタルを見せます。
 
ずっと引きこもっていた兄の変化と思考回路を理解できず、マジで戸惑う志乃。
 

 
しかし、お弁当の中には志乃が幼いころからずっと食べたかったあるモノが。
 
その中身をみた志乃は、不覚にもジーンと感動してしまいます。
 

 
もともと、2人はとても仲良しの兄弟だったのです。
 
優しいお兄ちゃんが大好きだった志乃。
いろんな怨みはありつつも、保を慕う気持ちが完全に消えたわけではありませんでした。
 
保に対する志乃の関わり方が、徐々に柔らかくなってきます。
 

 
バイトを始めようとする保に、しぶしぶと、でも積極的に協力しようとする志乃。
このツンデレ感、妹キャラのお手本ですね。
 
こうしてふたりの関係が徐々に変わり出し、志乃は自分の日常に保を迎え入れ始めました。
 
この先の道が、どうなっているかなんて知る由もなく……。
 
彼女の築き上げた青春は、恋は、兄によってどんな展開を迎えるのか。
 
不器用な兄弟・そして家族の再生物語その行く末を、ぜひ生暖かく見守ってみてください。
 
 
ふつつか者の兄ですが/日暮キノコ 講談社