近頃は、空前のフリースタイルラップバトルブーム。
テレビ番組でもラップバトル(MCバトル)が取り上げられるようになり、一般の人でもラップを楽しむ機会が増えた。
そこで、なにやら香ばしい香りとともに現れたのが、ラップバトル漫画『Change!』。
しかも、主人公は「女子高生」と来ている。
おいおい、もう勘弁してくれよ。
流行り物になんでも乗っかって漫画にするの、もうよそうぜ?
異色の主人公を詰め合わせる手法も、もうこりごりだ。
そうやって、いつものスタイルで「批評家オタク」をキメてから、パラパラとページをめくったとき、何気ない日常シーンにそのフレーズは訪れた。

「見えない首輪がついてるっつの」
「見えない首輪がついてる」
その言葉に妙にドキっとした。
なんだ、この心の痛いところだけをグサッとナイフで刺されたような感覚は……?
そう、まさにそれこそラップバトルで味わう感覚そのものだったのである。
日常の中にラップバトルがある

主人公は、私立の女子校に通う去年栞(こぞの・しおり)。
この学校では、その学校が決めた旧時代的な「理想の女性」になるための教育がなされており、ここに通う学生はまさに淑女街道まっしぐらといったところだ。
ラップバトルとは程遠い世界観であるのは間違いない。

そんな栞が物語の渦に巻き込まれていくのは、同じクラスに通うミキとの出会いからだ。
そう、「見えない首輪がついてるっつの」のあの子である。
学校の規則を遵守し、清廉潔白な学校生活を送る栞は、彼女から強烈なディスを喰らい、心にモヤモヤを残すのであった。
そして、ひょんなことから、ミキが放課後にクラブで店員として働いていることを知る。

生徒指導の先生がクラブに見回りにいくことを知った栞は、胸騒ぎが止まらず、人生初めてのクラブに入店することになるのである。

中で繰り広げられていたのは、壮絶なMCバトル。
韻を刻み、フロウに乗せて、対戦相手を攻撃する。
攻撃された側は相手のディスを踏まえた上で即興で言い返すのだ。

この「言い返す」という行為に無性に惹かれる栞。
そう。
「見えない首輪がついてる」
あの言葉がまだ心の奥でむずむずしていたのだ。
MCバトルを見て、彼女の心に芽生えたのは、ヒップホップに求められる「反抗」の魂だった。
この顔を見れば全てがわかる。

先生が見回りに来るから、机の下に隠れているようにミキに促した後の、この勝ち誇った顔。
そう、彼女たちのラップバトルはすでに始まっていたのだ。

ミキが痛烈なディスで、栞に言い返せば、

栞も普段の自分を解放するかのように、フリーキーなアンサーをお返しする。
ラップバトルはステージ上だけで繰り広げられるショウではない。
パンクロックバンド「ザ・クラッシュ」のボーカリスト、ジョー・ストラマーの言葉「Punk is attitude, not style.(パンクはスタイルではない。姿勢だ。)」と同様、ヒップホップとは生き方であり、MCバトルも日常のモヤモヤから火蓋が切られるのである。
『Change!』は女子高生を主人公にして、見事に「Hiphop is attitude」を描いている。
見えない首輪を解き放つことこそ、世界に対する反抗であり、ヒップホップの最も根底にある思想でもあるのだ。
本格的なラップ描写とJKのギャップ
ラップバトルの魅力に惹かれた栞は「MCしおりん」の名前でステージに立つことになる。
初めてのラップバトルに、突然の参加。
しかし、MCしおりんはその見た目とは裏腹に、負けん気の強さを秘めた女子だったのである。

「くそったれ!」の気持ちに正直になれることこそが、MCバトルの才能だ。
不揃いなフローに、たどたどしいライムではあるが、精一杯で言い返し、沸き立つフロア。
誰もがフラットに評価され、一発成り上がりが可能なラップバトルの醍醐味を描く。
そして、MCしおりんの目指す先は、「高ラ」こと、「高校生ラップ選手権」での優勝だ。
こうして本格的なMCバトルシーンを描きつつも、一方でたまに女子高生らしさが出るのも本作の魅力。

これまでに、ラップバトルでの敗北の悔しさに耐えきれず、風呂場で泣く女子を描いた作品はあっただろうか?
随所で挿入される少女の一面に、胸がキュンとなること間違いない。
さらに、極めつけは、天才的ツンデレ女子高生ミキである。

栞に対してなかなか素直に接することのできないミキがわざとラップバトルを仕掛け、ラップ中だけ、彼女への本音を表すシーンは、見る者の心を奪い去っていくだろう。
カカオというワードもJKの生活を匂わせるもので、妙にリアリティーがあっていい。
ヒップホップもMCバトルも知らないという人でも『Change!』は楽しめる。
「見えない首輪がついている」生きていれば、そんな風に閉塞感を感じることもある今日この頃。
長い物に巻かれないヒップホップな生き様を、本作でぜひ一度体感してほしい。