あなたにとって漫画とは? 漫画が燃やされる世界『CICADA』が泣ける

レビュー

あなたにとって漫画とは?

唐突すぎるが、そんな某『プロフェッショナル』顔負けのどストレートな疑問をあなたにぶつけたい。漫画はあなたの人生に何を与えてくれただろうか?

僕にとっては、漫画は身の回りにあって当然の存在。
どこまで影響を与えてくれたものなのか、正直よく分からないほどだ。

物心ついた時には、いつも枕の側には漫画があった。
クラス替えの日には、好きな漫画の話をすると誰とでもすぐに友達になれた。
人生と漫画の間には、切っても切り離せない関係性があったから、漫画のない世界なんて想像ができない。

じゃあ、もしもこの世界に漫画がなかったらどうなるのだろう……?
ある日、突然漫画の所持が犯罪となったらどうするのだろう……?

そんな架空の世界を描くSF漫画が『CICADA』(シカーダ)だ。
作品に込められたテーマは、「漫画への感謝」。
失って初めて、僕らは大事なものの存在に気づく。
読めば「漫画が僕らにくれたもの」がきっと見つかるはずだ。

CICADA
©山田玲司・バナーイ/小学館

漫画の所持が犯罪とされる世界

150年後の未来を描く『CICADA』の世界では、漫画の所持が犯罪とされる。
紙の漫画が見つかり次第、「焚書官」と呼ばれる政府機関に火炎放射器で塵にされてしまうのだ。

「ガキ臭い妄想に労働意欲が奪われる」「全国民の生産性を上げるためには、漫画を燃やさないといけない」。それが政府の判断であった。

しかし、この世界にも漫画を愛し続ける人達がいる。
それが犯罪と知りながらも、人目を忍んで漫画に救われ続けている人達がいる。

漫画が救ってくれるのは「心」だ。
漫画がない『CICADA』の世界の住人は、厳格な格差社会のもとで労働に従事し続ける。
地の底を這うような「現実」に対して、漫画が与えているのは「希望」である。

『CICADA』の世界では、実在の漫画が劇中に登場する。
そして、登場人物達はその漫画の出来事を、目を輝かせながら、ありありと語るのである。

主人公の「あたる」って奴は、バカでスケべでなんの取り柄もないのに……そんなに女にこばまれても…絶対に折れないんだ…

漫画の中の人達って、あきらめないじゃん。

どうにもならない現実を生き抜く際に、彼らは漫画の登場人物達を思い出すのである。
漫画に描かれる「フィクションの世界」が現実で生きる人達の力になっているのだ。

現代で生きる僕らは「漫画なんてあって当然のものだ」と思っている。
でも、僕らが夢を見られるのは、明日を頑張ろうと思えるのは、実は漫画のおかげなんじゃないか。
そう思えてくるのだ。

漫画が「力」になる世界

こちらは『鉄腕アトム』に登場する地上最大のロボットが現実世界に出現するシーン。

タイトルにもなっている『CICADA』とは、漫画を現実に具現化する能力者の名称である。
つまり、漫画が文字通りの「力」として表現されているのだ。

あるシカーダは、絶体絶命の窮地に陥った場面で『バビル2世』に登場する巨人ロボット「ポセイドン」を召喚し脱出を図る。
また別のシカーダは、「一番強いマンガのキャラは誰だと思う?」なんて相手に問いかけながら、『三つ目がとおる』の写楽保介を自身に憑依させ、キャラクターの力を持って敵と戦う。

そう。
『CICADA』は、「漫画が禁止された未来で、CICADAの能力を持つ人が漫画の力を使って未来を切り開いていく」作品なのである。
「もしドラえもんがいたらなぁ……」「孫悟空みたいに筋斗雲で世界中飛び回りたいな……」。僕らが幼い頃に抱いていたそんな妄想が、誰かを救う「力」になっている。

「漫画なんて読んでないで勉強しなさい!」。
多くの人が、そう言われながら育ったことだろう。
でも、僕らは誰もが漫画を読んでいた。
親に隠れて、押し入れに隠して、時にはテストの前にだって、なぜかずっと読み続けていたのだ。

あのときもし勉強していれば……なんて後悔している人もいるかもしれないが、『CICADA』を読んだ後、「あの時間は無駄ではなかった」ときっと思える。
僕らは漫画から明日を生きる希望を、誰かを救う力をもらっている。
そう信じられるだけの自信がきっとできるはずだ。

あなたにとって漫画とは何なのだろう?
あなたの漫画人生を振り返る際には、ぜひ『CICADA』を手にとってみてほしい。

CICADA/山田玲司・バナーイ 小学館