クラシックに疎くても入り込める!緻密な人間関係を描いた音楽漫画『ピアノの森』

レビュー

突然ですが、あなたの周りにライバルと呼べる存在はいますか?
 
今までの人生でバチバチの「ライバル関係」がなかった筆者ではありますが、会社の同僚や趣味の仲間などに、同じ志を持ちぶつかり合いながらも互いを高めあっていける相手がいると、日常生活にハリが生まれますよね。

 
とはいえ、そんな人間関係はみんながみんな持っているものでもありません。
ライバルなんて見当たらず、日々の生活にマンネリ化してしまった方に向けて、漫画『ピアノの森』を紹介させてください。
 

ピアノの森
©一色まこと/講談社
 
『ピアノの森』はジャンル分けするなら「音楽漫画」に分類される作品。
楽器はできないけど音楽漫画が好き。そんな方は多いのではないでしょうか。
筆者もその一人です。
 
『のだめカンタービレ』や『BLUE GIANT』などなど、音楽漫画には名作がそろっていますが、本作も名作と呼んで遜色ない作品です!間違いない!
 
本作は、天性の才能を持った主人公カイが元天才ピアニスト阿字野と出会い、プロのピアニストを目指していく物語。
物語ではカイが小学5年生から17歳になるまでの人生が描かれています。
 
小学5年生のカイは、飲み屋や風俗店が乱立する”森の端(もりのはた)”で育ち、娼婦として働く母親と二人で暮らしています。昼は小学校、夜は”森の端”の飲み屋で手伝いをさせられることも。
 
そんなカイの唯一の心のよりどころは、自宅隣にある森に捨てられたピアノ。
毎晩のように森に入っては、森の動物たちにピアノを弾いて聞かせていました。
 
対照的な二人は「ピアノ」でつながり親友からライバルへ
 
本作の魅力は音が聞こえてくるような気持ちのよい音楽描写はもちろん、細かく丁寧に描かれた人間関係、心理描写にあります。
特にカイの最大のライバルでありながら親友でもある修平は、物語をより人間臭く演出するキーパーソン。
転校生の修平は現役ピアニストの父親を持ち、自身もピアニストを目指して毎日何時間もピアノを引き続けるような英才教育を受ける、いわばサラブレット。
 
異なる環境で育った二人は「ピアノ」という共通点でつながり、ほどなくして親友になります。
しかし、小学校で音楽を教える元ピアニストの阿字野の存在により、二人の関係性は親友からライバルへと変わっていきます。
 
音がきらきらと跳ね、荒々しくも抜群の表現力でピアノを弾くカイと、正確さと再現性の高さは折り紙つきの努力派修平。
カイの生まれ持った才能に心から感動とリスペクトがある一方で、修平はその才能に嫉妬します。
 
「本当にピアノが好きなのか、親にやらされているだけなのではないだろうか」
 
ピアノとの向き合い方に悩み葛藤する修平に、つい仕事や趣味との向き合い方を顧みてしまいます。
 
『ピアノの森』は作品にでてくる登場人物が多いので、ミステリー小説を読むときのように、登場人物の人間関係やパーソナリティを都度振り返りながら読み進めていくこともありました。
 
特に物語の後半になると、天才少年カイをライバル視する人物がぐっと増えていきます。
そしてついつい、ひとりひとりのキャラクターに感情移入をしてしまうんですよね。
もれなくティッシュの用意も必要です。
 
最終巻の24巻、カイにはどんな景色が見えたのでしょうか。
そして修平との関係性はどう変化していくのか。
ぜひノンストップで読み進めて、カイの成長を見届けてください。
 
最後のページを閉じたとき、きっとあなたも動き出したくなるはずです。
 
ピアノの森/一色まこと 講談社