決して他人事じゃない!東京の近未来を描いたSF『COPPELION』

レビュー

――時は2036年。
20年前に東京で起きた大地震がきっかけで、お台場で稼働していた原子力発電所はメルトダウンを起こし東京全域に放射能が漏れだした。

COPPELION
©井上智徳/講談社

『COPPELION』を読んでいると、どうしてもこの物語をフィクションと捉えることは難しいと思ったのだ。前置きしておきたいが、この漫画の連載開始は2008年。
東日本大震災と、それに関連する原子力発電所の事故を題材にしている漫画ではない。

人間として生きていくこと、人形として生きていくこと

遺伝子操作により誕生し、放射能への抗体のあるコッペリオンは大地震の影響で原子力発電所から漏れ出した放射能に汚染された東京を舞台に、放射能の除染活動を行う存在。

本作のタイトルでもある『COPPELION(コッペリオン)』とは、
古典バレエ作品においての人形(コッペリア)とイオンを組み合わせた造語である。

物語の中心人物となるのは、陸上自衛隊第三師団特別工科学校を卒業し、特殊部隊として東京へ送り込まれた保健係の三人のコッペリオン。

主人公の荊(いばら)と葵、タエ子は課せられた任務を遂行するために奔走する。保健係である彼女らの任務は、生存している人間を助けること。

そして、東京に送り込まれたのは保健係の三人だけではない。
彼女らと同じく、遺伝子操作によって生まれた別部隊のコッペリオンが多く登場する。

コッペリオンの存在意義や東京に送り込まれた真意、彼女らの生みの親はストーリーが進むにつれて、徐々に明らかになっていく……。

本作の魅力は、コッペリオン任務遂行の中で出会う“人間”とのふれあいだ。
保健係である彼女たちの任務は「東京で生き残った人々を助けること」。
放射能が蔓延した東京は、もはや生身の人間は生きていけない場所となったが、そのような状態下でも、それぞれ事情を持ち都内で生活を続ける人々がいる。

例えば、7巻のタエ子が自衛隊の夫を持つ女性の出産に立ち会うシーンが印象的だった。東京で生き残った人々との触れ合いを通じて、自分たちの存在意義を実感するとともに、「なぜ自分は存在しているのか」と問答する。

作中では、実在する地名がそのまま出てくることも特徴。もし自分が住んでいる場所がこうなったら……」と考えたらゾッとするだろう。1巻の冒頭には、筆者が大学時代を過ごした多摩市も忠実に描かれていた。

放射能に汚染された東京は、果たしてコッペリオンによって救われるのか。
決して単なるSFとは思わずに読み進めて欲しい。

COPPELION/井上智徳 講談社