好きで選んだはずの仕事でも圧倒的な現実の前に心は疲れる 『編プロ☆ガール』

レビュー

漫画誌の休刊の報が相次ぎ、いよいよ出版業界もヤバいのではないかと思われる方も多いかと思われますが、この業界はもう20年ほども“出版不況”だと言われ続けておりまして、それでもどうにかこうにか生き長らえてまいりました。しかしここ数年の不況ぶりは格別で、やはり確実にこの業界は衰退しているのです。

編プロ☆ガール
©川崎昌平/ぶんか社
 
その皺寄せがどこに向かうかと言えばそれは現場です。出版社は売上を立てるために本を出さねばなりませんが、1点あたりの売上は減っているわけですから、トータルの売上をキープするためには出版点数を増やさねばなりません。とはいえ人手も時間も増えるわけではありませんので、1人1人の負担は増大。そこで編集プロダクション、通称“編プロ”の出番となるのです。
 
一般の方には馴染みがないかもしれませんが、みなさんが読んでいる本や雑誌の大部分は、出版社ではなく、編プロやフリーの編集者・ライターが作っています。もちろん版元の編集者が直接に手がけるものもありますが、それだけでは時間的にも量的にも間に合わないときに、編プロの協力は欠かせません。
 
編プロに回される仕事は厄介なものが多く、たとえばガイド本などは編プロ仕事の最たるものでしょう。とりあえず本を出すことが重要で、創造性よりも単純作業の積み重ねがメイン。情報量は多いに越したことはなく、クオリティは二の次という世界なのです。本作はそんな編プロが舞台です。
 
入社3年目の新人“編プロ☆ガール”束美には、それがいまいち納得できません。
 
「ウチで編集している本の数ですが……減らすことってできないんですか?」。
 
束美は先輩編集者“番長”に相談します。しかし彼はこう答えます。
 

 それは夢だ--気持ちはわかる 俺も若い頃はそう考えた (中略)あっという間に消える本をあっという間に編集する--それが俺たち編プロなんだ

 

 
そんな現場では心を病む者も少なくありません。幸い束美が勤める編プロは、上長の方針のもと、
 

 心は無理をさせるなよ?

 

 
という方針が徹底されてはいるのですが、割り切れない思いを束美は抱えています。
 

 『仕事そのものが心を疲れさせてしまう』場合はどうすればいいんですか? いい本をつくりたいと思っていても私たち編プロにはいつだって時間が足りません!

 

 
出版業界を舞台としたマンガといえば土田世紀『編集王』(小学館)や松田奈緒子『重版出来!!』(小学館)が思い出されますが、本作で描かれるのもまたこの業界の現実です。本が好きで入って来たはずなのに、愛せるような本はとても作れない。
 
それでも束美たちは、それぞれの仕事に小さなやりがいを見出して、ミッションを遂行していきます。本作でなによりも感動的なのは、どうしようもない現実の中で、どうにかこうにか折り合いを付けて働き続ける登場人物たちの心のありようです。誰もがやりたい仕事をやっているわけではないという現実。ある者は版元に移ることを選び、またある者は編プロに残ることを選びますが、それは彼女らが過酷な日々の中で導き出した最適解であるのです。
 
出版業界だけでなく、様々な事由により仕事で不本意な思いをしている方々に、この物語が届けばよいなと願います。
 
 
編プロ☆ガール/川崎昌平 ぶんか社