女子高生に振り回されながらも、揺るがない気持ち。『繋がる個体』

レビュー

可愛い女性に迫られたら、男性はつい受け入れてしまうかもしれない。
あるいは、体の繋がりから始まる関係もあると割り切ってしまう人もいるだろう。
それは決して、悪いことではない。
 
ただそれでも、極限状態に耐えながら体だけを繋いでも意味がないことを説く、『繋がる個体』に憧れてしまうのだ。

繋がる個体
©山本中学/講談社
 

女子高生に迫られて

 
主人公・正行は、どこにでもいるような中年に差し掛かろうかという社会人男性。
どこかくたびれた雰囲気さえ漂うが、数合わせで参加した合コンで、誰が見ても可愛いと言うような女の子と出会ってしまう。
 
気がつけば、腕の中にいるのはその可愛い女子・ココだった。
 

 
自分を見つめる瞳。肉体的な接触。
彼の論理感が崩れそうになるのが分かる。
流されてしまいそうになる感覚を、共有してしまう。
そして朝チュン。
お互い合意の上での朝チュンなので、本来であればやましいことなど何もないだろう。
しかし問題が1つあった。
ココは女子高生だったのだ。
 
女子高生と致してしまったかもしれない。その疑惑が、正行を激しく苦しめる。
後悔しその後の接触を避けようとする正行に対し、ココはその後もアプローチをかける。
モテる彼女に取って数多いる男の一人でしかないでないはずであるが、ココはなぜか正行に執着するようになるのだ。
 
この女子高生の熱烈アプローチが、また凄い。
メールでの精神的な揺さぶりだけではなく、正行宅への突撃も敢行。
家にいれなければ、大声を出して騒ぎにするぞという実力行使も辞さない構えも見せるなど、女子高生は最強なんじゃないかと思わせてくるアプローチっぷり。
 
ココにとって、世界の中心は自分だった……というのが非常によく分かる。
 

 
彼女は自分が可愛いこと、モテることを自覚している。
男とは常に自分を愛してくれる存在で、自分が望むように動いてくれる存在だった中、正行が取る行動はココにとって全て未知の体験だったのだろう。
 
自分がコントロールできない男がいる。
最初はただ少しムキになっていただけなのに、段々と正行を知っていく過程で、本気で好きになっていく姿に口元が緩んでしまう。
 

人と繋がるということ

正行には好きな女性がいる。同僚のくるみだ。
実は過去に付き合っていたことがあり、今もお互いのことを気にしている。
ただ、くるみの方に付き合えない理由があった。
心が離れることを、極端に恐れているのだ。
 

 
正行の好きだと思う部分を、彼女ははっきりと言える。
自分を想ってくれていることも、感じている。
ただ、その正行の気持ちが自分から離れてしまうことを、彼女は激しく恐れていた。
 
自分を欠陥品というのは、彼女が自身の過去の行為を負い目に感じているからだ。
それもあって、彼女は自分に自信が無いのだろう。
欠陥品の自分と付き合っても、正行はいつか自分から離れてしまうかもしれない。
その恐怖に、彼女は勝てずにいるのだ。
 
正行からすれば、お互い好き同士なのに付き合えないという不思議な状態だ。
くるみを面倒な女性だと思い、それこそ心が離れてしまってもおかしくはないだろう。
一般的な男性であれば、面倒なタイプのくるみより、自分を好いてくれるココに流れても全くおかしくはないだろう。
 
しかし正行は違う。
彼が繋がりたいのは、くるみだ。
彼女と、心も体も繋げたいのだ。
分かり合いたくて、分かち合いたくて。
 

 
普通ならば流されてしまいそうな女子高生の誘惑を、彼は拒む。
もちろん、くるみに義理立てしているということもある。
同時に、ココを抱くことが彼女のためにもならないことを理解して、諭してあげようとしているのだ。
 
相手が女子高生だからと、侮ったわけではない。
素直に自分が思ったこと、素直な気持ちを伝えるのだ。
 
体だけ繋がっても意味がない。
その言葉の意味を、ふと考える。
 
体だけで足りないのならば、浮かぶのは心だ。
だがそれは、あくまで繋げるものの一部でしかない。
 
繋げるのは、あらゆるもの。二人の間に存在するもの全てが、対象になりうるのだ。
その中に心も体も含まれている。
繋げるために、繋がるために一生懸命になる姿は、不器用ではあるが決して不格好ではない。むしろ、カッコイイとさえ思ってしまう。
 
好きな人と繋がること。
それがいかに凄いことかを、この漫画は教えてくれる。
 

まとめ

正行は揺らがないわけではない。
事実、ココに迫られたときはかなり取り乱した姿を見せている。
それでも彼は、本当に大事なときには流されない。
大切なことは何かを考えて、揺らぎながらも自分が正しいと思う行動を選択できる姿が、たまらなくカッコいいのだ。
 
正行が二人の女性と関わっていく中で生まれたドラマを描いた本作だが、実はヒロイン2人も浅からぬ関係だ。ぜひ本編を読んで、この作品と繋がって欲しい。
 
 
繋がる個体/山本中学 講談社