「お前と関わるとみんな不幸になる」。17歳の心の闇を描いた『シガテラ』のすごさ

レビュー

不運なことが続いたとき、「全部自分のせいなんじゃないか」なんて、思ってしまうことはありませんか?
 
何をやってもうまくいかないと、自分自身が「不幸のタネ」のような気がしちゃうことが私はよくあります。いわゆるネガティブ思考なのかもしれませんが、こういう人って少なくないと思うんです。
 
今回ご紹介する漫画『シガテラ』は、まさに「自分のせいで周りが不幸になってるんじゃないか」と思い悩む少年の人生を描いた漫画です。

シガテラ
©古谷実/講談社
 
17歳の高校生・荻野優介は、バイクに憧れるいたって平凡な少年。しかし、荻野の平和な日常は、同じ高校に通う谷脇という男によって壊されてしまいます。
 
荻野と彼の友人の高井は、谷脇にいじめられていました。裕福な家庭に育った高井はカツアゲに遭い、裕福ではない荻野はお金を払う代わりに、殴る蹴るの暴力を受ける毎日が続きます。
 
そんな荻野にとっての「希望」。
それは、免許を取得して同じ教習所に通う年上の女性・南雲に近づくこと、バイクに乗って日本中を旅すること。自分で稼いだバイト代で教習所に通い、中型バイクの免許取得を目指します。
 

 
そして、荻野は、念願叶って南雲と付き合えることに。初めてできた彼女と、幸せになろうと決意する荻野。しかし、その幸せは徐々にくずれていくことになります。
 
父親の事業失敗により高井は高校を中退し、転落していく人生にさらされます。そして谷脇に対して復讐を決めた高井は、インターネットで「森の狼」という男に谷脇を痛めつけるよう依頼。それをきっかけとして谷脇は生命の危機にさらされ、とんでもない拷問を受け……。
 
自分と関わった人間がどんどん不幸になっていく。自らを「毒」だと思う荻野は、次第にその考えに縛られるようになってしまい、人間関係をも変えていくことになります。
 
「シガテラ」とは、「毒素を持ったプランクトンに汚染された魚介類を摂取することで起こる食中毒」を意味します。
 
おそらく、「お前と関わるとみんな不幸になると言われた荻野」と「毒素を持ったプランクトン」を重ね合わせて付けられたタイトルなのですが、これが意外なほどに、本作を読み終わったあとにじわじわと効いてきます。
 
この作品の見どころは、そういった荻野の感情の変化や心の闇をとらえた「心理描写」の部分にあります。「自分は不幸のかたまりなんじゃないか」という不安を抱えながら生きる主人公に自分を重ねてしまい、ストーリーが進むにつれて、どんどん荻野が他人とは思えなくなってしまうんです。でも、彼はどんどん「非日常的」な不測の事態へ巻き込まれていってしまう……。
 
『シガテラ』は、『行け!稲中卓球部』などで知られる漫画家・古谷実さんによる作品です。本作は、これまで彼が手がけていた「ギャグ漫画調」の作風とは打って変わり、一人の少年の心の闇をシリアスな作風で描いています。
 
「どうか幸せになってほしい」
 
自分と重ね合わせてしまっているからなのか、一度読み始めたらきっと、彼の幸せを願いながら最後まで一気に読み進めてしまうと思います。
 
ある少年の「日常」と「非日常」のコントラストをうまく描いている本作品。少しでも興味があれば、一度手に取ってみてはいかがでしょうか。思わず手に汗握るような展開もあり、とても読み応えのある作品です。
 
 
シガテラ/古谷実 講談社