俺の母さんがこんなに可愛いわけがない…! 『大蜘蛛ちゃんフラッシュ・バック』

レビュー

男子たるもの、どんな人にも多少なりともマザコンの気があるもの。
 
実家に帰れば、なんだかんだで母親の健康や体調に気を使ってしまったり、
社会人としての姿を褒められるとつい嬉しくなってしまったり……。
 
僕はマザコンか、といわれると反射的に「違うわ」と言いたくなるものの、ハッキリと否定できないタイプの男子です。

幼少期からだいぶ甘え、甘やかされていたと思いますし、いまも実家に帰ったときは、母のオリジナルの炊き込みご飯を楽しみにしています。スーパーでよく売ってるインスタントな素材を使っているはずなのに、なぜか自分では再現できないんですよね……。
 
ですが今回ご紹介する『大蜘蛛ちゃんフラッシュ・バック』の主人公は、僕ごときがマザコンと名乗るのがおこがましくなるような男。マザコンどころかマザ恋、一つ屋根の下に暮らす母親に対して恋心を抱いてしまっているのです。
 

大蜘蛛ちゃんフラッシュ・バック
©Riichi Ueshiba/講談社
 
主人公の鈴木実くんは、両親と同じ高校に通う高校一年生。漫画家として忙しくしている母と家事を分担しているため、部活に入らずゆるやかな高校生活を送っています。
 
そんなごく普通の男子高校生の実くんですが、誰にも言えない悩みがあります。
 
それはときどき突然、高校時代の母親(旧姓:大蜘蛛)の姿が見えてしまうこと。
そしてそれはどうやら、10年ほど前に他界した父親の記憶。
 
息子である自身の脳裏に父親の見た映像がフラッシュバックしてしまうという謎の現象。
そんなフラッシュバックを繰り返すうちに、当時父親が抱いていた恋心が徐々に自身に乗り移り……。
ついに実くんは、大蜘蛛ちゃん、つまり自分の母親に恋してしまったのでした…。
 

 
本作の見どころは、そんな実くんにおこるフラッシュ・バックの数々。
 
目に映るのは決まって、高校時代の父親が母親である”大蜘蛛ちゃん”に恋心を感じ得る瞬間です。初めての出会いのシーン、放課後の教室、映画館での横顔、誕生日ケーキ。
 
そして、恋に落ちたとある決定的瞬間。
 
すべてのシーンが圧倒的甘酸っぱさを兼ね備えています……!
読者もきっと、大蜘蛛ちゃんに恋してしまうこと間違いなし。
 

 

 
作者の植芝理一さんは思春期を描かせたら当代イチの妄想の達人。
前作の『謎の彼女X』でも多くの読者を悶絶させた実績があるお方です。
現在も月刊アフタヌーンにて連載中の『大蜘蛛ちゃんフラッシュ・バック』も、今後が非常に楽しみです。
 
作中ではときおり、父さんの生前の様子が描かれることもありますがその姿は実くんとうりふたつ。内面も、外見も。息子には父親の遺伝子がきっちり含まれています。
 
ちょっとロマンチックな言い方をすれば、すべての男子には母に恋した男の遺伝子が半分入っているということです。そう考えると、マザコンは遺伝子的に運命づけられている、と言えなくもないのではないでしょうか……なんてことも思ってしまいます。
 
既刊は全2巻。謎のフラッシュ・バックの意味はいまだ不明で物語は始まったばかり。
今から読み始めてもすぐに追いついて、ばっちり楽しめますよ。
 
 
大蜘蛛ちゃんフラッシュ・バック/植芝理一 講談社