もしもゲームオタクがゲームの世界にまぎれこんだら…『百万畳ラビリンス』

レビュー

ゲームの世界に入りたい。
 
無敵状態で走り回ったり、モンスターと旅したりしたい。
 
僕らはそんな夢のある世界の一端に触れたくて、現実世界になんら影響を及ぼさないのに、つい熱心にゲームに勤しんでしまうのではないでしょうか。
 
現実もそんなにつまらないわけじゃありませんが、非現実世界のめくるめくワクワク世界の刺激は、やはり格別なのです…!

 
今回紹介する『百万畳ラビリンス』は、そんな願いをもった主人公がゲームの世界に紛れ込んでしまうというお話。実にうらやましい…と思ったのですが、そんなに単純でもなさそうです。
 

百万畳ラビリンス
©たかみち/少年画報社
 

バグ萌えのゲーム好き美少女が、謎の世界を探検

 

 
どこまで進んでも畳と和室。
 

 
ゲーム会社のデバッカーをするバイト仲間の礼香と庸子。
 
彼女たちはなぜか突然、異世界に紛れ込んでしまいます。
 
外に出ても景色は無限に続く書き割り調で、現実感は全く0。人間も動物もどこにもおらず、物理法則もめちゃくちゃ。階段を見つけてもそれは、エッシャーのだまし絵のごとき無限階段です。
 
脱出の糸口の見えない状況に焦燥を募らせる庸子。しかし現実世界でも”バグ萌え”な礼香はむしろ、「ここに残って支配者になろう」と楽観的です。
 

 
それでも探検を続ける中で、徐々に明らかになっていく世界のルール。現れる協力者。そして敵たち…。
 

 
礼香と庸子は持ち前のゲーム脳を駆使し、現実の物理法則が全く通じない非日常の世界に挑み、体力、知力、精神力をすり減らしながら驚愕の真実を解き明かしていきます。
 
この箇所の仕掛けの元ネタはひょっとしてあのゲームからの引用なのではないだろうか?
コマの中に描かれている風景に何かヒントはないだろうか?
 
読み手である我々まで、作中で冒険しているかのような錯覚を感じられる作品となっています!
 

「ゲームの世界に入りたい」という気持ちの正体

 
本作を読んでいて気づきました。
 
僕の「ゲームの世界に入ってみたい」という願望は、「単純な価値観の中で生きたい…」といった思いからきているのではないかと。
 
ただ敵を踏み潰しながら右の方に進んでればよかったり、モンスターの育成と対戦が上手であれば一切金に困らなかったり…。つまり、楽して暮らしたいというダメ人間的願望だったのです。
 
『百万畳ラビリンス』の世界も、ちょっとそんな感じです。歩けども歩けども畳だらけですが、とりあえずは無限に見つかる食料。お腹もすかない、寝なくても大丈夫。本やゲームもたまに落ちてる。
 
そんなところに放り込まれたら、僕は確実にサボって怠惰の極みを探求することになるでしょう…。
 
しかし『百万畳ラビリンス』の彼女たちは、そんな世界に入り込んでも、その仕組みを利用して楽するのではなく、起こっている問題を解決することにしました。めちゃかっこいいですね。ゲームをやらせると人の性格がでると思っているのですが、彼女たちは間違いなくいいやつらです。
 
僕ははからずも自分の怠惰さに気づかされることになってしまいましたが、ゲーム好きの皆さまに置かれましては、本作を、”自分だったらどうするかな…”と考えてみながら読むと面白いと思います!
 
 
百万畳ラビリンス/たかみち 少年画報社