『GANTZ』『いぬやしき』に続くは、巨大ヒロインのフェチSF?『GIGANT』

レビュー

フェチと漫画は、切っても切り離せない関係にある。

そりゃ、「脚フェチ」くらいだったら、現実の脚を眺めれば足りるのは当然だが、例えばフェチが「オムツを履いたスライム」だった場合大変だ。

その対象は、現実に存在するわけがない。当然である。

つまり、現実離れしたフェチズムの持ち主は、必然的に創作の世界に依存せざるを得ないのだ。

こうした点在した各々のフェチを満たすため、漫画の世界では、多種多様なフェチが描かれ続けてきた。

そこで、今回取り上げたいのはこの作品、『GIGANT』(ギガント)だ。

GIGANT
©奥浩哉/小学館

「ヒロインがAV女優で巨大化する」という、いかにも作者のフェチ丸出しの作品。
作者はともに実写映画化を果たした漫画『GANTZ』『いぬやしき』の奥浩哉先生である。

今や、国民的漫画家となった奥先生は、最新作『GIGANT』で何を描こうとしているのか?
見るものに衝撃をもたらす、「巨大化×フェチ」の世界を紹介していく。

巨大化するヒロインが主人公のフェチSF

物語は、映画監督に憧れる16歳の高校生、横山田零と、AV女優の「パピコ」こと、ちほ・ヨハンソンが出会うところから始まっていく。

もともと、彼女のファンであった零は街中に貼られた嫌がらせのポスターを発見。

必死に剥がしていたところに、ちほが通りがかり、二人は徐々に心の距離を近づけていく。

根幹となるのは、ちほの腕につけられた謎の装置だ。
このダイヤルらしきもの、ちほが道端に倒れた老人を助けた際に、腕に装着され、取り外しができなくなったもの。

一度このダイヤルを回してみると……

なんと、巨大化するのだ。
個室トイレがみるみるうちにパンパンに……。

この巨大化のシーンを見て、僕はこの漫画は間違いなく「フェチ」を描こうとしていることがわかった。

一般的に、巨大化するシーンを描く際は、衣服ごと巨大化するのが「決まりごと」だ。
だから、どの作品でも、衣服が破れることはなかった。

しかし、この作品では、無慈悲にも衣服がビリビリに破れる。

毎度毎度、衣服が弾け飛ぶのだ。
見ていて感じるのは、なんとも言えない「罪悪感」。
そして、やってはいけないことをやってしまった「爽快感」だ。

また、ここで生きてくるのが、ちほの「AV女優」という職業の設定だ。
職業上、裸姿を見られることに慣れている彼女だからこそ、巨大化に伴って裸を見られたとしても、特段恥ずかしがるそぶりを見せないのだ。

見ているこちらとしては、思わず目を伏せたくなるような巨大全裸に対し、キョトンとして何一つ表情を変えないちほ。
この非日常な状況におけるミスマッチが、「フェチを狙って描いているのではないか?」と感じさせる点の一つだ。

巨大なものに対するフェチズム

そして、世の中には、巨大なものに対してフェチを抱く「サイズフェチ」と呼ばれる嗜好が存在する。
自分よりも相対的に巨大な、それも数倍から数十倍の大きさをした異性(だけに限らないが主にその傾向が高い)に憧れるというものだ。

サイズフェチと言えども、各々で「巨人」に何を求めるのかは異なる。
しかし、巨人の良さを語る場合に、「圧倒的な力の差が魅力だ」と語る人が多いのも事実だ。

「強大すぎる力の前に、屈服せざるを得ない」シチュエーションに憧れを抱くのである。

『GIGANT』で描かれるのも、まさにそのシチェエーションだ。
巨大化したちほが、暴力を振るおうとして来た彼氏に対して、力をもって抑え込むこのシーン。

どれだけあがいても、ちほの強大な力の前ではビクともしない。
いつものように暴言を吐いたとしても、封じ込まれてしまう、この圧倒的な力の差。

しかも、普段は従順で自ら主張をすることもない、ちほだからこそ、その圧倒的な力を見せられたときの「屈辱感」「敗北感」は計り知れない。

この描き方は間違いなく、サイズフェチを意識したものと推測できる。

思い出されるのは、奥先生の過去の作品『変』と『HEN』。
普通とはちがう、少しアブノーマルな恋愛漫画だ。

要所でフェチを描き続けてきた奥先生だからこそたどり着くのことのできるフェチの境地がここにある。

投票で選べる世紀末 VS 巨大ヒロイン…?

まだ1巻しか発売されていないので、物語の今後の展開を予想することが難しいが、1巻の終盤では波乱の展開を予想させるシーンが……。

突然、空から排泄物が降る?
その原因は、ネットで突如人気になった投票サイト。

「enjoy the end」のキャッチフレーズのもと、世紀末感のあるお願いを投稿し、投票することができるのだ。

はたして、ちほの巨大化とどのような関係があるのだろうか?

ぜひ一度「フェチ」の観点とともに、今後の物語にも注目してみてほしい。

GIGANT/奥浩哉 小学館