連休に“わびれ”た旅はいかが? 新感覚ガイドブック漫画(!?)『わびれもの』

レビュー

秘境。廃線跡。無人駅。日本最○端の地。珍スポット。B級スポット。
これらの単語にちょっとワクワクしてしまう人に、ぜひ薦めたい漫画がある。
「まんがライフMOMO」にて2008年~2013年に連載された『わびれもの』『わびれものゴージャス』(小坂俊史)だ。

シブくて地味な、ニッポン“裏”名所探訪記

わびれもの
©小坂俊史/竹書房
わびれものゴージャス
©小坂俊史/竹書房

…出オチのようで恐縮だが、このどこかで見たことがあるような表紙が示すとおり、本作は作者・小坂俊史が各地に出かけていってはそこでの体験をレポートするエッセイ漫画であり、ある種のガイドブック的な内容にもなっている。
(実際、筆者はこれらの本が書店で「る●ぶ」「こ●りっぷ」と並んでガイドブックの棚に陳列されているのを見かけ、大変にニヤニヤしてしまった経験がある)

ただし、出かけていく先はあくまで「日本“裏”名所」。
作者の趣味が如実に反映された、「わび・さび」の“わび”+“さびれ”=「わびれ」たスポットたちだ。
具体的には、「冬の江ノ島」「中野ブロードウェイの4F」「デパートの屋上の遊園地」「キリストの墓(青森県)」「UFOの里(福島県)」「モーゼの墓(石川県)」「楊貴妃の墓(山口県)」…といった場所を訪れている。
もう、この探訪先の羅列を見ただけで心が躍る好事家もいることと思う。

「珍スポットまとめ」とは違う、抒情的な視点

しかし、この作品のポイントとして強調したいのは、そういったB級スポットを面白おかしく取り上げているだけでは決してないところだ。

いわゆる「珍スポット」「B級スポット」と呼ばれる場所は、サブカル的な目線から注目されることも多い。
TV番組が取材に行くこともあるし、扱う雑誌やウェブサイトも少なくない。視覚的にインパクトがあれば、SNSでバズったりもする。
本作にも登場する青森県の「ピラミッド↑キリストの墓→」の標識などは、「Twitterで見たことある」という人もいるのではないだろうか。

本作では、それらのスポットがどのような経緯で生まれ、地域でどのように親しまれているのか…といった事情にも、そっと迫っている。
バブル経済や都市再開発など、この数十年間の社会の変化が感じられる事例もあれば、そこに関わった人の個人的な背景に思いを馳せずにはいられない事例もある。

静かなテンションで、じわりと笑わせながらも、叙情性やノスタルジーを感じさせる4コマ作品を多く手掛ける作者ならではの語り口がぴたりとマッチしていて、よくある「珍スポットまとめ」のようなものとは、明らかに一線を画しているのだ。
本作を読むと、最初から「B級スポット」になろうとして「B級スポット」になっているところなんて(あまり)ないのだ、ということを思い出させられる。

さびれスポットは永遠ではない。時間を超える旅のススメ

『わびれもの』は2010年6月、『わびれものゴージャス』は2013年5月に発行された本だ。
もちろん雑誌に掲載されたのは、それぞれもっと前の時点ということになる。
5年以上前、しかもあえて「わびれ」た場所ばかりを巡っている本作で扱われている施設や店舗は、当然ながら2018年現在、なくなっていたり、形が変わっていたりするものもあるだろう。
本稿を書くにあたり、それを改めて調べてみようかとも考えたが、あえてそれはやめておいた。

「行ってみようかな…」と興味を抱き、調べてみたら、その場所はもうなかった。
そんな体験をしたときに感じる気持ちもまた、「わびれ」ではないかと思うのだ。
本作をきっかけに、その過程も含めて不思議で儚い「わびれ旅」に繰り出す…たとえば今度の休日、そんなふうに過ごしてみてはいかがだろうか。

わびれもの/小坂俊史 竹書房
わびれものゴージャス/小坂俊史 竹書房