懐かしいから新しい。『星のとりで~箱館新戦記~』は“王道少女新選組漫画”だ!

レビュー

女オタクの“必修科目”のひとつ、「新選組」というコンテンツ

女オタクの多くは、そのオタク人生のどこかで一度は「新選組病」を患うのではないかと思う。
歴史の変わり目にあった激動の時代という背景が、それだけで興味深いのはもちろん、その中で最後まで徳川幕府方として戦い抜いた立場や、局長・近藤勇、“鬼の副長”土方歳三、一番隊組長・沖田総司…といった人物たちは調べるほどにその魅力が浮き彫りになり、彼ら一人ひとりや、その関係性を活写した小説や漫画、映像作品が多数残されてきていることで、なんとなくとっつきづらい印象のある「歴史」というジャンルに足を踏み入れるきっかけとして最適なコンテンツだからだろう。

『星のとりで~箱館新戦記~』(碧也ぴんく)は、女性向け漫画雑誌「WINGS」(新書館)で連載中の作品。

星のとりで~箱館新戦記~
©碧也ぴんく/新書館

「新選組」ものといっても、物語のスタート時点で近藤勇も沖田総司もすでに亡くなっている。「箱館新戦記」と副題にある通り、“鬼の副長”土方歳三が髪を切り洋装となって、北海道・箱館(函館)に向かって北上する、新選組の歴史の中でもかなり「終盤」に焦点を絞って描かれている。
土方の戦いの記録を、現時点では土方附の小姓だった市村鉄之助ら少年たちの視点から、おもに語っていく物語だ。

深い敬意と愛情による、美しく丁寧な新選組戦記

読んでいてまず強く印象に残るのは、なんといっても土方を筆頭とした「美しい男たち」、そして鉄之助ら「愛らしい少年たち」の描写。
新選組隊士や共闘する陸軍隊、仙台額兵隊などの男たちは美しくも勇壮に、彼らを見上げ、憧れる立場の少年隊士たちは「少年」の持つ自然なかわいらしさを前面に押し出して描かれる。
眺めているだけで心が洗われるような「美しい」漫画だが、それだけではない。

本作では、実際に新選組らが採った戦略や、行軍の進路、その中で起きた出来事など、彼らの戦いの模様がかなり緻密に、詳細に語られている。
方々で戦ったさまざまな隊の集合体であった彼らは、その構成も複雑で、ややこしい部分があったりもするが、各隊が合流して北へと向かう過程も丁寧に追っている。
描く期間をぎゅっと絞ることで、この情報密度を実現できているのだろう。巻末に列記される大量の文献からも感じられる、マニアックとさえいえるくらいのこだわりには、歴史上の人物や出来事に対する細やかなリスペクトや愛情を感じさせられる。
実際の本人たちに似せるというよりは、拾える特徴を拾いながら、華やかな画面やドラマ作りに映えるよう、少女漫画らしいアレンジが加えられているキャラクターデザインも、彼らの存在を読者に愛してもらうことを目的とする意味で、また彼らへの敬意のあらわれであると思う。

「少女漫画×新選組」=歴史への興味を喚起する王道の組み合わせ

筆者は、前述のような感想に加えて、「懐かしい」という感覚を本作に対して抱いている。
それは、90年代~00年代にかけて10代だった筆者が、冒頭で述べた「新選組病」に罹患するきっかけであった『風光る』(渡辺多恵子)、『新撰組異聞 PEACE MAKER』(黒乃奈々絵)といった作品にも通じる、「王道少女(読者の多い)新選組漫画」感を強く感じるからだと思う。
(『PEACE MAKER』は「月刊少年ガンガン」(エニックス※当時)掲載作品であり、迫力のある筆致など、少年漫画らしさも十二分に備えた作品ではあるが、主要読者は明確にほぼ女性であったという意味で、一種の「少女漫画」とも呼ぶことができると考えている)

『天まであがれ!』(木原敏江)、『無頼』(岩崎陽子)、『北走新選組』(菅野文)…などなど、女性向け漫画はいつも、新選組ファン文化への、ひいては歴史への興味を抱くきっかけになってきた。
今はその役割は、ゲームやアニメに受け継がれている面もあるかもしれない。
でも、個人的にはやはり、漫画にもその一部を引き続き担っていってほしい。
巻末に付された、関連人物や細かいエピソードを紹介するおまけ漫画、沖田総司がナビゲーターを務める解説漫画なども含め、本作では幕末という時代に、歴史に親しみを抱ける工夫も凝らされている。
この作品が、オタク気質女子たちがこの深淵に足を踏み入れるきっかけのひとつになると良いなと思っている。

星のとりで~箱館新戦記~/碧也ぴんく 新書館