友達みんなで「あれ読んだ!?」と考察にワイワイはしゃぐ漫画もいいけれど、たとえばカバンの奥に常にあって、手持ち無沙汰の時に何度でも読み返せるような漫画も素敵だな、と思う。
絹田村子先生の作品は、私にとってそんな空気を持つものばかりだ。スッと日常のそばにいて、静かに心に入り込んでくる。
今回紹介するのは、とある不幸な体質を持つ男の、すこし不思議で恐ろしいミステリ漫画『重要参考人探偵』である。
等しく死体にとって第一発見者の男
世の中には様々な「死」がある。縊死、轢死、溺死、窒死、焼死、圧死……。

日々どこかで発生する死の現場において、なぜか幾度となく第一発見者となってしまう奇特な体質を持つ男性がいた。

それが、主人公の弥木 圭(まねき けい)である。
歩いては棒に当たる犬のごとく死体を発見してしまう上に、しつこい警察の事情聴取を煩わしがるため、しばしば重要参考人として捕まってしまうことも。

端正な顔立ちを活かしてモデルとして活躍する圭。ファッション関連はもちろん、雑誌やCM、テレビ番組など多岐にわたる媒体で活動している。
まあつまり、多岐にわたる媒体で活動をしている→全国いろんなところに行く→いろんなところの死体に遭遇する、という不遇な環境にさらされているのだが……。

結婚を考えているカップルのための模擬挙式を務めれば、新婦役のモデルが自分の腕の中で死んだりする。やばい。ぜんぜんコングラチュレーションじゃない。

ことあるごとに容疑者として疑われる圭は、自分の潔白を晴らすべく、調査で真犯人を見つけ出していくのだった。
そう、その姿はまさに「重要参考人探偵」。
自分が疑われて自分が解決するからまあアレだが、出向くところ出向くところに死体が発生するあたり、彼も漫画界におけるなかなかの死神なのである。……もちろん1番は名探偵コうわなにするやめろ!!
凄惨な事件に花(?)を添えるトリオの掛け合い

不幸な彼をサポートするのは、モデル仲間の周防 斎(すおういつき)と、シモン 藤馬(しもん とうま)。
大金持ちの家庭に生まれ、根っからの推理マニアである斎。そして持ち前のルックスと物腰の柔らかさで女性にモッテモテのシモン。財力を駆使して警察から追われる圭を匿ったり、現場に居合わせた女の子から重要な情報を聞き出したりと、独自捜査を手助けする重要な存在だ。

まあどちらも、不憫な圭の体質に同情しつつも軽妙な掛け合いで彼に絡んでくるので、いまいち緊張感がないのが微笑ましい。
絹田先生の前作『さんすくみ』も、主人公トリオのドタバタした掛け合いが魅力だった。先生はトリオものがお好きなのかしら…。
あ、ちなみに『さんすくみ』のレビューも書いておりますのでぜひご一読ください。いやぁ、絹田先生の作品、だいすきなんだよね……。シリアスとコミカルのバランスもいいし、少女漫画らしからぬシュッとした絵柄も魅力的だし……。
「最初の死体」をきっかけに事件は思わぬ展開に

1〜2話完結で事件を解決していく展開がしばらく続いたあと、物語はひとつの大きな事件に向けてうねりはじめる。
そのきっかけは、圭が5歳のころに遭遇した「最初の死体」。

ある夏、自然豊かなどこかで、カブトムシを探しにいった森の片隅に転がっていた男性の縊死体(いしたい 首をくくって死んだ死体)。
「最初の死体」の謎を追ううち、圭自身も知らなかった謎が浮かび上がり、圭自身の生い立ちや体質の発露に関わるおぞましい大事件へと飲み込まれていくのだった……。
秋の夜長にぴったり!ドラマ化もされたミステリの名作をぜひ

キャラクターたちの掛け合いが爽快な前半から、圭が「最初の死体」に疑問を覚えはじめる中盤、そしてあらわになった陰惨な事件と、推理の疾走感。
そして、最後に爽やかささえ覚えるような大円団。
前作の『さんすくみ』もそうだが、絹田先生は広げた風呂敷を本当に綺麗に包むなあ〜!と読んで思わず拍手を送ってしまったくらい。
起承転結の美しさもあって、この作品は2017年の秋にドラマ化もされたそうなので、ひょっとすると原作は知らないがドラマの方は見たことがあるという人もいるかもしれない。
全7巻と手に取りやすいので、今年はミステリ漫画の名作『重要参考人探偵』で秋の夜長を過ごしてみてはいかがだろう。