趣味を話せる相手がいるって幸せだ『スローモーションをもう一度』

レビュー

「胸キュンラブストーリー」なんて死語だ。
 
…ごめんなさいそれは言いすぎたかもしれない。
でも、ウェッティな「純愛もの」が流行った80〜90年代に比べたら、最近のコンテンツはカラッカラッにラブが枯渇しているのは間違いない。
 
最近では、ラブを主題にしたコンテンツでも、無理やりサスペンス要素を足したり、主人公がイかれた妄想野郎だったり、「ストレートに見せたカットボール」の場合が多い。

 
大谷翔平くんが日本最速165km/hのストレートを投げたのが2016年のこと。
近年、漂う「そろそろあってもいいんじゃない?」みたいな空気。
 
そう、それはついに私たちの前に姿を現した。
 
ど真ん中にど直球を爆速で投げ込む漫画。
 
俺たちの胸キュンラブストーリーが、帰ってきた。ゴクリ。
 
『スローモーションをもう一度』は間違いなく、今最も純愛度の高いラブコメマンガだ。
 

スローモーションをもう一度
©加納梨衣/小学館
 

おいおいキュン死しちまうだろうが…

 

 
お分かりだろうか。この密着おんぶ。
急に女子の体に触れ、胸が高鳴るこの感じ。
 
この男、絶対恋に落ちている。
恋のラブモーション、先走ってる。
 

 
お分かりだろうか。このアモーレな瞳。
頰を赤らめ、ふいに流し目で見ちゃうこの感じ。
 
この子、絶対恋に落ちている。
恋の予感、甘く走ってる。
 
これだよ、これこれ。
ウブな男子が引っ込み思案な女子に出会って始まる恋のアバンチュール。
 
そう、圧倒的にわかりやすい。
僕らが待っていたのは、この我が物顔で王道を走る時速200kmの豪速球ストーリー。
これだったのだ!
 

 
なによこの距離。このタッチ。
体温でいい感じに餅焼けそうだなお前ら。
 
あぁ、僕の初恋もこんな感じだっけなぁ。
そうだ、恋ってこんなにみずみずしかったんだなぁ。
 
『スローモーションをもう一度』は、止まっていた「あの頃の時間」を動かしてくれる。
 

初めて趣味が合う人に会ったときのこと覚えていますか?

 
『スローモーションをもう一度』のストーリーの軸になっているのは、「趣味の共有」だ。
主人公とヒロイン、二人の趣味は「80年代文化」。
 

 
主人公の大滝くんも、ヒロインの薬師丸ちゃんも、周りに変な趣味と思われるのが嫌で、誰にも趣味を明かさなかった。
自分が大好きなものを誰とも共有できず、一人だけで楽しむ毎日。
 
そんなある日、ひょんなきっかけで二人はお互いの趣味を知ることになる。
 
想像してほしい。
生まれて初めて同じ趣味を持った同年代の人間と会えた瞬間を。
 

 
恋、するでしょう。
間違いなく、恋、するでしょう!
 
話したいけど話せないもどかしさ、そして、話せる誰かがいることのありがたさ。
少しオタクな趣味を持っている人なら、この展開に胸がときめいちゃうんじゃないだろうか。
 
また、このマンガがあざといのは、「80年代カルチャー」を題材にすることで、当時少年少女だった大人たちの心を、あの頃にタイムスリップさせてしまう点だ。
 

 
物語の要所要所では、80年代の楽曲の歌詞が引用される。
 
あの頃の青春時代が脳内でリフレインされていく感覚。
マンガの物語と歌詞の中の物語がクロスする瞬間に、懐かしいだけではない、新しい感動も得られるはずだ。
 
読み終えた後は、老いも若きも口を揃えてこう言うはず。
「こんな胸キュンラブストーリー、待っていた。」と。
 
今じゃ逆に新鮮な純愛ものを読んで、恋い焦がれる休日を過ごしても悪くないはず。
 
スローモーションをもう一度/加納梨衣 小学館