日常系作品の世界は、漫画好きが憧れる世界の1つだ。友達と過ごすゆるふわな日々の幸せ。
『KILLER☆KILLER GIRLS キラキラガールズ』は死刑囚が集められた女子監獄の物語。凶悪犯だって日常系でゆるふわしたい! …というコメディの皮をかぶった、リアルを描く劇薬的な作品だ。
日常系漫画みたいに過ごしたい!
主人公のスケイプ・ゴトウは、日常系漫画が大好きな女の子。彼女が向かう先は、脱獄不可能な監獄。中にいるのはほぼ死刑囚の犯罪者。絶望しかない。
ところが数人の囚人が、彼女をお茶会で歓迎してくれた。
絶対無理だと諦めていた「日常系」な生活。夢にまで見た「チョココロネをどっちから食べればいいか」みたいな他愛もない会話が、監獄内でできたのだ。
仲良くなったのは、連続殺人鬼のヤガー、食人鬼のネイル、人体剥製作りのCD、毒殺犯のケイビー。そりゃ死刑になるわという面々も、意外とみんないい子。
虚構の日常ごっこがはじまる。スケイプの思考は暴走気味。女の子たちも動物っぽい衣装なので、ギャグ要素が強めに見える。ラブレター1つで大騒ぎする彼女たちの姿は、確かにゆるふわ漫画のイベントっぽい。
しかしここにいるのは、全員死刑囚。5年以内には、もうこの世にはいない。どんなに彼女たちが「日常系」の真似事を楽しんでいても、目を覚まさせるような事件は常時起きる。
昨日は一緒に騒いでいたあの子。今日死刑が執行され、泣き叫んで汚物撒き散らして死んだ。
次から次へと、監獄の残酷な現実が押し寄せる。
本当の地獄はどっちだ
作中の出来事は凄惨なものばかりだ。
スケイプと一緒に収容されたヤガーは、かなりの美人でスタイルもいい。すぐに男性看守に目をつけられ、性的暴力を振るわれるようになる。
ヤガーは自分が黙っていればいい、と考えるタイプ。友達思いで泣き虫なスケイプには、深い事実を言おうとはしない。
囚人が囚人を蹴落として、カーストを作る空間。看取が囚人を、奴隷か家畜以下としか扱わない空間。懲罰房に入れられると、行動に証拠があろうとなかろうと、ほぼ拷問に近い形で処罰がくだされる。
ヤガーは恋人が愛してくれたキレイな背中に誇りをもっており、常に背中の開いた服を着ていた。しかし懲罰房を出てからは、絶対背中が見えない衣装に変わっている。
地獄だ。当然脱獄を試みるものも出てくる。スケイプも誘われた。ところが彼女、脱獄をする気が一切ない。
「はみ出し者同士 きっと上手くいくと思うんだよね」「私のいるべき場所はここなんだ!」
真っ直ぐな思考で頑張る彼女は、とても情熱的で心を動かしてくる。けれども彼女は正しい選択をしているのかと言われると、疑問が残る。この作品に、友情はあっても「正義」や「公正さ」は存在しない。
あなたと一緒に死んであげる
物語はスケイプとヤガーを中心に進んでいく。2人に共通しているのは、外の世界で「あなたと一緒に死刑になる気はない」と見捨てられたことだ。
スケイプがギャグ漫画テイストに、看取に殴られるシーンがある。
ところがそれからしばらくして、彼女の左足は一切動かなくなってしまう。実は脳挫傷で、麻痺してしまったのだ。もう治ることはない。
物語はドタバタギャグな表面を装いながら、どんどん絶望へと突き進んでいく。脱獄問題で揉め、仲間は死に、自分たちの死期が近いことを日々感じ、看守たちの冷酷な仕打ちにひたすら耐える。
ゆるふわっぽい4コマを挟むなど、漫画の構成はかなり工夫されている。それだけに、彼女たちが直面するリアルとのギャップは大きく、悲しさは加速する。
それでも「日常系」でありたいと諦めないのが、スケイプというヒロインの魅力。特にヤガーとの友人関係の中では、電波スレスレの執念を見せる。
次第に彼女の「日常系」は「ごっこ」ではなくなる。友達を作り、感情を共有し、一緒に泣く。いわば「日常系」作品が持つ「人との絆」という本質に、監獄の中で迫ろうとし始めるのが見どころの1つ。
看取を倒すようなカタルシスは一切ない。冤罪が証明されるシーンもない。囚人たちが罪を償って大逆転する展開もない。殺人犯たちに明るい未来は一切ない。
だからこそ、スケイプとヤガーが向き合う「死」と「日常」は、一瞬だけではあるがキラキラと輝いている。
頭に乾いたスポンジを乗せる、という映画「グリーンマイル」のネタなど、や殺人犯まわりの小ネタも詰まっているので、探してみよう。
『KILLER☆KILLER GIRLS キラキラガールズ/安田剛助 集英社』