お兄ちゃんが好きだとは言えないけど。『ふだつきのキョーコちゃん』

レビュー

自分を慕ってくれる妹、というのは1つのロマンだ。普段は兄に対してキツい言葉をぶつけることもあるが、時折忍ばせた好意が溢れる……という展開は、たまらないものがある。
『ふだつきのキョーコちゃん』は、まさにお兄ちゃんが好きとは素直に言えないけれど、兄に対する好意がそこかしこから漏れてくる、ニヤニヤ必須の漫画だ。

ふだつきのキョーコちゃん
©山本崇一朗/小学館

素直になれない妹心

ヒロインであるキョーコに、兄であるケンジはシスコンと周りから揶揄されるくらいに付きまとう。それはキョーコが「キョンシー」であるという秘密を、周りから隠すためだ。
「キョンシー」であるキョーコは、人よりはるかに力が強い。食生活も人とは異なり、彼女は人の血を吸うことでエネルギーを得ている。周りに隠しているのだから、血を吸う相手はいつも兄であるケンジだ。更には頭のリボンが「キョンシー」としての本能を抑える力があり、解けてしまうと本能のまま吸血してしまうという。

そんなキョーコを、兄であるケンジが心配しないはずがない。その構い方は、過保護という表現が適切だろう。
兄の過保護っぷりに、妹であるキョーコはツレない態度を取る。しかし彼女は、それが自分を想ってのことだと充分理解している。キョーコのために、兄がさまざまなことを犠牲にしているのを知っているのだ。

しかし、素直に感謝の気持ちや好意を伝えられない。いじらしい感じが、たまらなく可愛い。兄がいない場面では、素直にそれを表すことができているのだ。ケンジのためにお弁当を作る姿は、兄を想う優しい気持ちが溢れて、思わず頬が緩む。ケンジが寝ている時には、聞かれていなければ素直な気持ちを言えるのに……そんな風につぶやいたり。なかなか素直になれない妹の姿に、全男子が持っている「兄心」がキュンキュンするのだ。

他にもキョーコからケンジをシスコンとからかったくせに、興味がないと言われると憤慨したりと、素直になれないキョーコの反応が、どうしようもないくらい愛おしい。

素直になれないキョーコだが、「キョンシー」としての本能を抑えているリボンが解けると、心の中に秘めた気持ちが露わになるという特性もある。
素直に自分の気持ちを伝えてくる姿が、普段とのギャップを生み出し凄まじい破壊力を持たせている。

2つの顔を持っているキョーコだが、素直な時もそうでない時も、兄であるケンジを想う気持ちが伝わってくるのが、本当に素晴らしい。

お兄ちゃん取っちゃヤダ!という気持ち

ケンジがシスコンであることは事実だが、キョーコもまたブラコンと言っても過言ではないだろう。キョンシーということを周りに隠しているため、まともな人付き合いが難しいということもあり、対人関係がケンジに依存しがちということも影響しているだろう。

そんなキョーコが関わりを持つ数少ない人物に、日比野という女性キャラがいる。彼女はケンジのクラスの委員長だ。日比野がケンジに関わってくる時、キョーコは兄を取られたくない気持ちが隠せなくなってしまう。ケンジが日比野にデレデレすると、どこからともなく表れていつもより多めに吸血したり。2人が少し良い雰囲気になった時は、大きな声を出してしまったりと……ケンジへの好意が全く隠せていない様子が、実に良くて楽しくなってしまう。

おいおいとツッコミを入れたくなる気持ちがあるが、お兄ちゃんを取られたくない気持ちが溢れた時の、少しムキになったようなキョーコの表情に胸キュンしてしまって、それどころではないのだ。

まとめ

『ふだつきのキョーコちゃん』は、兄のケンジと妹のキョーコを中心とした物語である。ケンジに対するキョーコの反応にこれほど幸せな気持ちになるのは、ケンジがキョーコを大切にしている姿を丁寧に描いているからなのだろう。
この漫画を人前で読むことはおすすめしない。ニヤニヤが隠せず、不審がられること間違いなしだからだ。

ふだつきのキョーコちゃん/山本崇一朗 小学館