年に5500万人以上が訪れる、日本有数の観光都市・京都。
それだけたくさんの人が訪れるということは、飲食店も多いわけで。街を歩けば、歴史ある寺社や仏閣とともにジャンルもさまざまなお店が軒を連ねている。
私はそんな京都に住みながらライター業をしているので、よくこんな質問をもらうことがある。
「京都で地元民が行くおいしいお店教えて!」
「割烹とか懐石以外でおいしいお店ある?」
「ローカルのおいしいお店が載ってるガイドブックないの?」
わかったからもう、とりあえず、『カラスのいとし京都めし』を買って!
万事それで解決するから!!
地元民御用達、実際に存在するイケてるお店が登場する「京都×グルメ漫画」という、新ジャンル。おいしいものに敏感で、くいしんぼうの京都在住漫画家・魚田南先生による作品なのだ。
人間のおいしいもんが好きすぎて……
中村軒のうなぎ茶漬けにがっつくのは、主人公の青年・烏丸(からすま)、通称「カラス」。
一見するとどこにでもいる元気な若者だが、彼の本当の姿は、お寺に住み着いていた神格化したカラス。
神として長大な時間を生きるのに倦み……。と言えば神獣っぽさが増すが、好奇心旺盛な彼は人間の食べるものに夢中になった。
ありとあらゆるものがおいしそうで……。彼はなんと人間に化け、人間として生活をしながら、いろんなお店を食べ歩きして生きているのだ。
しかも、お寺に居候しながらちゃんとアルバイトをして食い扶持を稼ぐという真面目(?)ぶり。
実在する京都のお店が舞台
この作品のおもしろいところは、烏丸くんが食べ歩くお店は、すべて京都市内・近郊に実在するお店ばかりということ。
たとえば御幸町通姉小路下ルに位置する、エスニック料理好きがこぞって通う創作料理店「ブランカ」。
ピータン×ザーサイ×パクチーの白和えに、まったり食感がたまらない自家製の胡麻豆腐。
「ソフトシェル車えびのイスラム上げ」は、パクチーの根っこやクミン、どんぐりチップなど癖になる素材が盛りだくさん。
絶妙なスパイス×ハーブ使いと独自のアレンジセンスに感動の烏丸くん。さすがカラスは知能が高いだけある、ブランカのウマさをわかってくれるとは……うんうん。
寺町通仏光寺下ルのラーメン店「麺屋 猪一」は、ミシュランガイドにも掲載されたことのある行列のできる超人気店。
上質な和牛に出汁の効いた醤油ベースのスープを堪能。
「顔変わっとりますがな!」とツッコミを入れたくなるほど恍惚の表情が、その味を物語ってくれる。
他にも、開店から行列のできる伏見区のうどん屋さんの「牛かすうどん」、たっぷり入った油かす(牛の腸を油であげたやつ、めちゃくちゃいい出汁がでる)のジューシーさに狂喜乱舞したり。
京都高島屋の名物フルーツパーラーのラフランスパフェに目を見開いたり。
京都に住まい、または訪れる人々の空腹を満たすさまざまなグルメが、食欲旺盛なカラスを通じて紹介されている。
なんなら人間の私よりもいいもの食べてるしな。お腹減ったなあ。
ちゃんと「いただきます」する律儀なカラス。
イケメンの友達に愛らしい家族も
店舗紹介の食レポとしてはもちろんだが、カラスを取り巻くキャラクターたちと織りなすストーリーもまた読んでいてワクワクする。
バイトの同僚、王子様系超絶イケメンボーイの鳩井(はとがい)くんとの凸凹な友情(?)や、
カラスになにかと当たりのキツい、お寺の孫・かすみの進学への葛藤。
そして、カラスをつけ狙う謎の人物。
個性豊かな人物たちの苦悩や恐ろしさが繊細に描き出され、「この先どうなるの!?」とハラハラさせられるストーリー展開にページをめくる手が止まらない。
怪しさがとまらないキャラの登場に「なんやコイツ……」と思ったかと思えば、超弩級の可愛さが止まらないキャラの登場に「なんやコイツ〜〜♡」と悶絶するページがあって、緩急のつけ方がグルメ漫画という枠組みを超えていることにも注目したい。
『カラスの〜』を抱えて京都に行こう
とにかく実在のお店に忠実で、細部まで丁寧に描き込まれたゴハンの絵、そして天真爛漫なカラスの食べっぷりを見ていたら、いますぐ出かけたくなるはず。
ぜひ京都に来る際には本作品をお供に、カラスが愛してやまない京都めしを堪能してほしい。
『カラスのいとし京都めし/魚田南 祥伝社』