京都の町屋に暮らす若手職人たちの美しい暮らし 『路地恋花』

レビュー

ものづくりはお好きでしょうか。

大量生産品じゃなくて、職人の手でひとつひとつ丁寧につくられていて、客の趣味嗜好とか、思い出とか、内に秘めたる感情を込めていたりとか。そういう”ストーリー”のあるものづくりに惹かれるという人は結構いるような気がします。

さて、京都のとある一角に、若手の職人たちが職住一体の暮らしをしながらものづくりに打ち込む職人長屋がある。

路地(ろぉじ)の奥で、さまざまな”ストーリー”のあるものを生み出していく職人たちの姿と、彼らをとりまく恋を描いたオムニバスストーリー。

それが麻生みこと先生の『路地恋花』である。

路地恋花
©麻生みこと/講談社

ものづくりに打ち込む若手職人たち

舞台は京都。繁華街から少し離れた街の一角にその路地はある。ものづくりに打ち込む若手職人たちが、町屋づくりの古い職人長屋で職住一体の暮らしを営んでいるのだ。

たとえば、本をこよなく愛する小春は、客のオーダーに合わせてオリジナルの本をつくる職人さん。

死んだ愛犬を記録したアルバム、家の味を次世代に残すためのレシピ集、ひ孫に祇園祭の素晴らしさを伝える絵本など、さまざまな客の要望を聞いて、紙選びから、データ作成&入稿、綴じ、装丁までひとりでこなしている。

(なぜか客はお年寄りばっかり)

銀細工職人の光生(みつお)は、オーダーメイドでさまざまなアクセサリーをつくって生計を立てている。型取りから鋳造、研磨まで一貫しておこなう手の込んだアクセサリー。一点モノにつき交換・返品不可をうたう。

キャンドル作家の麻美(あさみ)はブライダルの現場で使用するオリジナルろうそくなどをつくったり、子供向けの教室を開講して暮らしている。

みんな若手の職人たちゆえ裕福な暮らしはできていないようだけれど、好きなことに打ち込みながら、それでご飯を食べていることを誇りに思っていることがわかる。

古き良き町家のしつらえ、丁寧な作業の様子などが手に取るようにわかって、職人の手仕事が好きな人は引き込まれること間違いなし!

器用な職人の恋は不器用……?

さて、「恋花」と名がつくだけに、作中では職人たちの恋愛模様が描かれるわけだが、どうにも一様にみな不器用なのである。手先はめちゃくちゃ器用な人たちばかりなのになぁ……。

密かに恋心を抱く常連客の女の子に「マリッジリングをつくって」と懇願される光生。

まあ、この女の子は極度の騙されやすさで、浮気男、妻子持ちなどと悪い男に引っかかりまくり、今までに13回ペアリングをオーダーして13回キャンセルするという猛者ではあるのだが……。

好きな人が結婚に向けてキャッキャとはしゃぐ姿を何度も目の当たりにするのもかなり辛いが、光生は、彼女が失恋のたびにキャンセルした指輪の素材を溶かし直してさまざまなアクセサリーにつくり変えてきた。

自分でつくったものを「しるし」のように身に纏わせるほど独占欲たっぷりなのに「俺にしとけ」と言えない不器用っぷりに読んでいてああもう、ジタバタ……。

職人長屋で喫茶店を営む皐月(さつき)は、本業は小説家。とある文学賞の最終選考でこき下ろされたショックから筆を置き、京都に引っ越してきた過去を持つ青年だ。

彼はロリータの文学女子高生・ナオミから好意を持たれるが、自分自身のコンプレックスが足枷に。ナオミの若くて素直な恋心を「若気の至りだ」と突っぱねようとする。

「都落ち」よろしく文壇の世界から逃げてきた男と、そんな男に惹かれる少女との恋の行方は……まさかの展開なのでぜひその目で確かめてください。

じつは実在の路地がモチーフ!

甘かったりほろ苦かったり、でもどこか心が温まるような恋と向き合う職人たち。ああ、こんな実際に場所があったら素敵だなあ……。

と、思う読者の方も多いと思いますが、

実在する場所がモチーフになっています。

モデルとなった場所は京都市東山区にある「あじき路地」。そのロケーションの美しさから『舞妓Haaaan!!!』をはじめ数々の映像作品のロケ地になっている京都の名物路地なのだ。

若手の職人さんたちが職住一体の暮らしをしながら研鑽を積んでいるところも、作中と同じ(というかこの路地をモチーフにしているから当然だけど)。現在ではアイシングクッキー作家さん、つづれ織りの布で帯や小物をつくる職人さんなどが入居している。

おりしも京都はそろそろ秋の行楽シーズン。今年の秋は京都に行こうかなと思ったら、『路地恋花』を読んで、聖地巡礼よろしく実在の場所に足を運んでみるのもいいかも。

路地恋花/麻生みこと 講談社