ごはんを通して知る、舞妓さんと花街の日常『舞妓さんちのまかないさん』

レビュー

古都・京都。

世界的にも有名な観光地として、各国から多くの旅行者が京都を訪れている。

そんな京都の夜を代表する存在といえば……そう、舞妓さん。

京都在住の筆者、何度も舞妓さんを見かけてはいるし、舞妓さんに取材したこともある。それでも街ナカでお座敷に向かう彼女たちと遭遇するたび「やっぱり綺麗やな〜」と見ほれてしまうもの。

さてさて、京の夜をあでやかに彩る美しい舞妓さんたちは、お座敷が終わると屋形(やかた)や置屋(おきや)と言われる家に帰っていく。そこで何をするかというと……

プリンに食い意地をはる、普通の女の子に戻るのである。

舞妓さんは、舞妓になること自体がゴールと思われがちだけど、じつは「芸妓」さんの見習い状態。厳しい稽古とお座敷の経験を積み重ねながら、芸の道を突き詰めていくのだ。

見習い状態であり、なおかつ未成年の彼女たちは、女将さんを母代わりに、屋形で共同生活を送るのが基本。

そして、世間一般で言えば高校生の年齢である彼女たちは、食べ盛りで育ち盛り。

古き良き町家の台所に立ち、日々腹ペコの舞妓さんたちのお腹を満たしているのが……

16歳の小さな「まかないさん」、キヨなのだ。

少年漫画らしからぬ穏やかなストーリー構成、見るからにおいしそうな「まかない料理」の数々、そして愛らしい舞妓さんたち……。

小山愛子先生が描く『舞妓さんちのまかないさん』は、読めばお腹がなりつつ、のほほんと愛おしいキャラクターたちにすっかり虜になる日常系漫画である。

舞妓さんちのまかないさん
©小山愛子/小学館

マイペースすぎて「おとめ」になった舞妓見習い・キヨ

キヨの朝は台所のぬか床をかき混ぜるところはからはじまる。

夢中になりすぎて、ぬか床相手に一人芝居をはじめるほどマイペースなキヨ。

彼女は最初から、まかないさんだったわけではない。

もともとは舞妓志望で京都にやってきたのだったが、まーこれが度を越したマイペースさで、何度教えても振り付けを覚えられず、踊りの師匠からは「また、あんたか」と毎度怒られる始末。

ついには「おとめ」と呼ばれる、舞妓リタイア勧告を、尾形のおかあさんからうけてしまう。

そのころ、屋形では昔から「まかないさん」をつとめていたおばちゃんが腰痛に倒れ、連日、出来合いのお弁当で食いつないでいた。野菜少なめ・脂多め・味濃いめの食生活に、舞妓さんたちの精神衛生状態は崩壊寸前。

そんな彼女たちの心とお腹を満たしたのは、キヨがこしらえたご飯だった。

舞妓としてはダメだったけれど、キヨは新たに「まかないさん」として、若干16歳ながら屋形全体の健康管理を担う存在となっている。

胸をしめつける家庭的で素朴な料理

キヨのつくる料理はとにかく家庭的。珍しい野菜も、特別なスパイスも、高級な食材も登場しない。

ケチャップソースがたっぷりかかったハンバーグとか。

冷凍庫に凍らせたままだった鶏モモ肉を使った親子丼とか。

キヨの地元、青森の郷土料理「ひっつみ汁」とか。

なんのことはないごくごく普通の家庭料理。けれどそれがお稽古にお座敷にがんばる舞妓さんたちを思ってつくられたものなら、唯一無二のごちそうになる。

最近、こういうの食べてないなぁ……と胸を締めつけるようなノスタルジーさにかられる大人、絶対多いはず。

幼馴染の逸材・「百はな」との友情

中学卒業後、一緒に舞妓を目指して屋形に入ったすーちゃん(すみれ)。「努力家の逸材」として、花街でメキメキと頭角をあらわしていく。

かたやお師匠さんも目を置く実力、かたやのんびりが過ぎて落ちこぼれ(舞妓としてはね)、ともに青森から出てきたふたりの間には、その立場の違いからいつしか深い溝が……。

という展開はないのでご安心ください。

見習い期間を経て、「百はな(ももはな)」という名前で舞妓デビューが決まったすみれに「大事な時期だから」と大量のごはんをこしらえるキヨ。

キヨの気持ちに気づき、重いメニューをペロリと平らげ、また稽古へと戻っていくすーちゃん。

舞妓デビューして、周囲が「百はな」と呼び名を変えても、キヨだけは「すーちゃん呼び」を続ける強固な友情がそこにある。

か、可愛すぎるわ〜〜〜い!!!

花街の暮らしも知ることができる

花街を舞台に展開するストーリーゆえ、花街の四季折々でおこる生活の一幕も知ることができる。

イルミネーションもツリーもないけれど、クリスマスの時期は着物や活けてあるお花にクリスマスらしさを取り入れていたり。

舞妓さんは紅を塗った状態でご飯を食べるので、お寿司やサンドイッチは一口サイズのものだったり。

さまざまなメディアが取り上げる花街、その等身大の姿をこの作品は教えてくれるのだ。

巻が進むにつれ、人気舞妓「百はな」として出世していくすーちゃん。他の女の子たちも、せっせと腕を磨いている。
そんな若い才能の「影の立役者」として、キヨは今日も今日とておいしいごはんをつくり続けていて……。

この漫画は本当にそれだけだ。何話にもわたって長いエピソードが続くわけでもないし、バトルも大恋愛もない。
花街の一角で、こつこつと紡がれていく日常の一片を、このキヨのこしらえる心温まるごはんを通して、覗いてみてはいかがだろうか。

舞妓さんちのまかないさん/小山愛子 小学館