グルメ×王道ラブコメ『味噌汁でカンパイ!』の純朴さに胸キュンとバブみを感じる

レビュー

「毎日味噌汁をつくってくれ」なんてプロポーズの言葉はもう死語に近いけれど、お出汁の効いた味噌汁は、1日の始まりを豊かにしてくれる日本人のソウルフード。

そんな味噌汁を巡って、幼馴染みの男女が繰り広げるグルメ&ほのぼのラブストーリー漫画、笹乃さい先生の『味噌汁でカンパイ!』を今回は紹介したい。

味噌汁でカンパイ!
©笹乃さい/小学館

「お母さんになってあげたくて」

主人公の善一郎(通称:善「ゼン」)は、9年前に母を亡くし、父親と二人暮らしを送る中学生。

父親は出張に忙しく、実質一人暮らしに近い生活を送る彼。朝ごはんはもっぱら、父親が置いていったお金で買うコンビニ飯。

そんな彼の隣に住むのは、幼馴染の八重(やえ)。善がずっと密かに恋心を抱いている女の子(でもじつは、幼少期に「お嫁さんよりもなりたいものがある」とフラれてしまっているのだが……)。ちなみに出だしから「食パン少女」なのは、八重の家では「朝ごはんは残すな!」が家訓だから。

そつなく毎日をこなしつつも「母の味」は随分記憶から遠くなってしまった彼の朝に、ひょんなことから転機がおとずれる。

それは、八重が毎日朝ごはんを作ってくれるようになったこと。

ある日、朝食を摂らない若者が増えている、と報じるニュースに驚く八重。朝ごはんを大切にする彼女には理解できないといった風だったが、、八重のの母がこう言ったのだ。

「あんたねー、毎日お母さんが用意してあげてるから、そんな事が言えるのよね。自分で用意しないといけない人もたくさんいるのよ。一人暮らしの人とか親が共働きの子とか……」

「一日の始まりは朝ごはんにあり! 誰かに作ってもらった朝ごはんはね、お腹だけじゃなく心も満たすのよ」
(1巻23p1-4コマ引用)

母の言葉に八重が思い浮かべたのは、幼馴染の善。

なんと彼女は「善のお嫁さん」ではなく「善のお母さん」になりたかったのだ(だからフった)。

それは、善が母親を亡くし、1人泣いていた日からの約束だった。たった5歳で母親を永遠に失った彼と交わした指切り。

ずっと、あたしがずっとそばにいて、善を守ってあげる、お母さんにだってなってあげる……と。そんな「母親役」の約束を実行できるのが、善に毎日できたてのお味噌汁を作ることだったわけだ。

け、

健気なすがたにオバちゃん泣いちゃう……!!

こうして、ふたりの素敵な朝ごはんライフがスタートするのだった。

二人三脚で味噌汁を学ぶ姿が可愛い

「毎日お味噌汁つくってあげる!」と意気込む八重だが、そこはなんだかんだ料理初心者。

出汁を知らずに味噌のお湯割を出してしまったり、貝類の砂抜きを知らずにジャミジャミ食感のしじみの味噌汁を出してしまったりと、物語序盤は失敗が続く。

その度にふたりで調理法を学んでいく二人三脚の姿がとても愛らしい。

また、八重の空回りな失敗にも怒らず、手を差し伸べる善の優しさに、読むたび心がホッコリする。中学生なのに随分落ち着いた性格をしているよね君……。

現在6巻まで発売しされているが、話を追うごとに味噌汁スキルがメキメキと上がっていく八重にもご注目。

暑い日に宮崎の郷土料理・冷汁をつくったり、遠足用のお味噌汁に、かつて足軽の携帯食として使われた「芋がら」を使うなど、中学生ながら好奇心と母心で大人顔負けの絶品味噌汁をつくるようになる。

ちなみに、調理シーンには丁寧な解説が添えられており、読みながら味噌汁のさまざまな知識を学べるようになっている。デフォルメされたふたりのデザインもかわいい。

胸キュンとバブみの狭間で

味噌汁に関する学びはもちろんとして、お互いのことを大切に思う善と八重の姿がもう可愛い。とにかく可愛い。

八重にひっつきまくるイトコの小学生にヤキモチをやく善。

普段は父子家庭で家のことをこなしているなど大人びたところのある彼が、小さな男の子にライバル心を燃やして本気になるあたりに胸キュン!

旅先から「何か忘れ物をしている気がして」と、わざわざ善におはようの挨拶をするなど、けなげな八重にも胸がキュンキュン!

お母さん役として張り切る八重の、善に対する思いも少しずつ変わっていったり……。

こういう毒のない純朴なラブコメって、最近読んでなかったなとしみじみ。ふたりの穏やかで愛らしい関係が、丁寧に出汁をとった味噌汁のごとく、読むほどに身体に染み渡っていく。

また、八重が台所に立つ姿が本当に美しい。彼女が朝日に照らされた湯気をまとって毎朝コツコツと朝ごはんを作り続ける様子に、ただただもう泣けてくる。

これがバブみってやつか……。

一緒に味噌汁を食べることができる尊さ

一日の始まりであったり、一区切りであったり、日々の生活のなかでさまざまな意味をもつ朝ごはん。

誰かと一緒に出来立ての味噌汁を食べる細やかな幸せ。ふたりの何気ない朝を追体験するたびに、それがいかに尊い時間かを知る事ができる。

あったかい味噌汁を朝イチで誰かのために作れるよう、私も来たる日(?)のために腕を磨いていこうと思う所存です。

完全に余談ですが、八重のふわっとした毛束感やセーラー服の柔らかくて大きなリボンのこの感じ、谷川史子先生のイズムをすごく感じる……! どうなんでしょうか笹乃先生!

味噌汁でカンパイ!/笹乃さい 小学館