センパイキモいっスね。後輩はイジりがちょっと過激『イジらないで、長瀞さん』

レビュー

イジらないで、長瀞さん
©Nanashi/講談社
 
思春期男子は、押されると弱い。女の子にぐいぐい押されたい願望は、みんなあったんじゃないかなあ。ただし、叩いたり罵られたりバカにされたりとなると、少々厳しいかもしれない。
 
『イジらないで、長瀞さん』のヒロイン・長瀞さんは、美術部員のセンパイを文字通り泣かせるまで詰め寄ってくる女の子。主に言葉責め。「キモいっスね」「センパイ瞼がピクピクしてますよぉ?」「男のくせに…力弱いっスね~」「女子から告られるとか有り得ると思ってるんですか?」容赦なく責める。そりゃ泣くわ。
 

 
鮮やかな日焼け肌に、直に履いている上靴。快活さ溢れる彼女は、ニヤリとした顔がとてもよく似合う。
 
彼女がセンパイにアプローチするのは、気になっているからではある。とはいえ過激すぎる。センパイは嫌気がさしそうなものだが、そこはそれ。意外に2人通じ合っているのがこの漫画の面白いところ。
 
長瀞さんの、センパイに対してガン責めデレな様子を、いくつか見てみよう。
 

長瀞さんのイジり術

 
その1:暴力一歩手前のスキンシップ
 
長瀞さんは、気の弱いセンパイに対して物理攻撃を幾度かしている。後ろから押す、頭を突く、くらいは日常的。それが強くなってペシィッと音がするくらい平手でひっぱたいたり、げんこつで背中をポクポク殴ったり。外部から見たらいじめの範疇に見えるかもしれないけれども、そこは2人の間のギリギリのさじ加減。
 

 
現時点では、ストマッククローが一番痛そうな攻撃。ただこれ、とあるやらかしをしてしまった照れ隠しでの行動なので、彼女の中でも攻撃レベルは高い方。普段からではない。
 
長瀞さんの物理攻撃は、基本スキンシップの暴走だ。長瀞さん自身は器用ではないので、稀にやりすぎて暴力になってしまう。やりすぎたら、反省してちゃんと謝る。いじめたいんじゃなくて、猫のようにじゃれつきたいのだ。
 
その2掴んだり押し倒したり
 
長瀞さんはセンパイに対して、自分のターンを取ると触れ過ぎなくらいスキンシップを取ろうとする。といってもラブラブな抱きつきとかではなく、あくまでも自分がセンパイをイジっている、という立ち位置。
 
美術部で1人デッサンをしているセンパイのところに、やたら通ってくる長瀞さん。センパイが純粋なのをいいことに、吸血鬼になりきって噛み付こうとする。センパイ、反撃できない。
 

 
高校生ならどういう状況かわかれよ、センパイ! もっとも長瀞さんがここまで積極的にできちゃうのは、センパイが下心のある反撃をしないのがわかっているから。別に長瀞さんは性的行為をしたいわけじゃないので、多少過激なスキンシップを取っても、ちゃんと一線は守って、ある程度で離脱するのも重要なポイント。
 
その3:女の子であることを意識させてみる
 
長瀞さんは美術室に来ては、モデルになってあげようかと執拗に詰め寄ってくる。ちなみに超草食系男子のセンパイは、描きたいとは一言も言っていない。長瀞さんはモデルになると、ことあるごとに、ちらちら太ももやら襟元やらを見せてくる。
 

 
センパイの反応が面白くて仕方ないからだ。絶対にセンパイは、凝視してこないし、手も出さないというのがわかっての行動。ここでエロを享受できない彼だからこそ、長瀞さんはいたずらしてくる。
 
もっとも長瀞さんはイジりつつも、センパイに描いてもらいたいというのだけは、おそらく本心なのだろう。
 

長瀞さんが惹かれたワケ

 
作者のナナシ氏は、イラストコミュニケーション・サービス「pixiv」でこの漫画の原型になる一連のイラストストーリーシリーズをアップしている。こちらは読者が一人称視点で長瀞さんを見ている形式なので、センパイの姿は無し(ただしこちらはかなり過激な暴力表現もあるので注意)。
 
今作ではセンパイは1人の人格を持った存在として描かれている。貧弱で、頼れそうなところが一つもない彼に、長瀞さんが惹かれるのには、ちゃんと理由があるのが随所で読み取れる。
 

 
1話で、長瀞さんと友達が、センパイが落とした漫画を拾って読んだのが最初の出会い。友達はみんなゲラゲラ笑い飛ばした。長瀞さんは彼の漫画にダメ出しをしながら、イジる形で話しかけ、センパイを泣かせた。この時は意地悪にしか見えない。しかし彼女だけが、真剣にセンパイの漫画を読んでいたのが次第にわかってくる。
 
以降、1人きりで美術室にこもってこつこつと絵を描く姿を、長瀞さんはずっと見続けている。
 
彼女は暴走気味だけれども、人を見る力がとても鋭い。どんなにイケメンでも、自分の芯がしっかりしていないチャラチャラした人間を、極度に嫌う。一方で真剣に打ち込む人には、強い興味を持つ。
 
センパイは本当に絵が好きだ。長瀞さんと話しているとどうにもへなちょこになってしまうが、描き始めるとどっぷりとのめり込む。彼の絵には「好き」が詰まっているのを、長瀞さんは知っている。彼は普段の会話も絵も、正直なのだ。
 
3話まではいじめ的な力関係の2人。その後からは、長瀞さんのデレ度が爆発的に膨れ上がる。センパイもじわじわ長瀞さんを意識するようになる。ここからが本作の本領発揮だ。
 
単行本化の際描き下ろしイラストと短編漫画が追加されている。連載時の激しめの責めが、いかに長瀞さんのラブの裏返しだったかが明かされているので必見。彼女のセンパイへの攻撃が激しくなればなるほど、ニヤニヤできる作品だ。
 
 
イジらないで、長瀞さん/ナナシ 講談社