嘘みたいなご都合主義。ピュアな後輩×憧れの先輩『嘘みたいな話ですが』が羨ましい!

レビュー

「片想い」が「両想い」になるのは難しいですが、漫画ならすぐ叶ってしまうこともありますよね。『嘘みたいな話ですが』は、その名の通り「嘘みたいな」状況でスピード交際に発展したカップルを描いたBL作品です。作者の腰乃先生の作風は、「若気の至り」と「性欲」に満ちた刺激強めの絡みシーンが印象的。エロい作品を読みたい!と思春期の男子学生のようなことを考えている方には、もってこいの作品だと思います。

嘘みたいな話ですが
©腰乃/libre

片想い、急に叶っちゃいました

主人公の中村聡は、25歳サラリーマン。仕事ができてイケメンな会社の先輩、北川圭一に片想いしています。毎晩、先輩の写真を貼った酒瓶を相手に「愛してます」と告白の練習、朝は駅の灰皿相手に「先輩おはようございます」と挨拶の練習、3時に給湯室の食器棚相手に「このあと、どこか行きませんか?」とシュミレーション。しかし、先輩はノンケ(=同性愛の“ケ”がない、異性愛者のこと)だし、実際に行動に移せるほどの勇気はなく、悶々とした日々を過ごしているのでした。ところがある日、仕事終わりのサシ飲みで、北川がベロベロに酔っ払ってしまいます。帰りのタクシーで「中村んち泊めて」と言われ……。気づいたらそこは中村の家。ベットには、北川が寝転がっているのでした。

ずっと憧れていた先輩が、自分の家にいて、しかも無防備な姿で寝ている。これは一世一代のチャンスとばかりに手を付け……られません。なんせ中村、日ごろのシュミレーションにあるように、「おまえは乙女か!」と言いたくなるほど女々しいですからね。ビビっているうちに北川が目を覚ましますが、なんとここで再チャンス。彼は起きるなり「しないのか?」「お前俺のこと好きだろ」などと言うのです。実は北川、中村の熱心なアプローチに気づいていて、だんだんとその気になってきたようなのです。そして、2人はただの先輩と後輩から、恋人へと変わっていくのでした。

「嘘みたいな」展開でも、「嘘じゃない」愛に共感

あらすじだけで、「そんなことあるかい!」の連続ではありますが、いやいや、タイトルを読み返してみてください。「嘘みたいな話」なんですから。でも、中村が抱く北川への純粋な気持ちに嘘は感じません。なぜなら、わざわざ遠回りして北川と一緒に出社したり、北川を観察している割にはいざ見つめられると照れちゃったり…彼の行動、とっても可愛いんです。誰しもひとつは「わかる!」と思う共感があるから、読んでいて胸がキュンとするし、ふたりを羨ましく感じてしまうんです。そして、中村の好意に気づいて行動した北川の想いもまた、嘘がないんですよ。本編では中村視点の話と、北川視点での話両方があるので、北川サイドで読み取れる想いにもまた注目。これは読んでみてのお楽しみです。

安心して読める、ハッピーエンドな全3編

本作は、今回紹介した表題作「嘘みたいな話ですが」に加え、2つの短編、書きおろしも収録された、ボリューミーな1冊。いずれの話も、会社の先輩後輩によるラブコメディになっています。どの物語もハッピーエンドなので、気楽な気持ちで読めるのがよいところ。あと個人的には、「塩顔で体は細マッチョ」な腰乃先生の描く男性がお気に入りです。さわやかで知的な男性同士がお好みの方、必読です!

嘘みたいな話ですが/腰乃 libre