多分この作品、そう遠くない未来にドラマなり映画なり、映像化すると思っております。
もともと『サイコメトラーEIJI』、『シバトラ』など、朝基まさし先生の作品は読んでいたので、この作品の連載がはじまったときも「お！朝基先生の新作や！読んだろ！」くらいの軽い気持ちで読みはじめたのだが、怒涛のハラハラ展開に犯され、常に新刊を欲する身体になってしまった。
山川直輝先生（原作）、朝基まさし先生（作画）のタッグによる『マイホームヒーロー』を紹介したい。
可愛い娘と妻、そして推理小説を愛する冴えない中年サラリーマン鳥栖 哲雄（とす てつお)。
この作品は、彼が愛する家族を悪党から守るために奮闘する、新感覚のホームドラマである。
愛する家族を……。
守るため……。
こ、この作品は、彼が愛する家族を悪党から守るために奮闘する、新感覚ホームドラマクライムサスペンスである！！
いきなりお父さんが殺っちまっているのです〜！！
殺人からはじまる「平和な家庭のつくりかた」
事の発端は、2ヶ月前に一人暮らしをはじめた愛娘・零花（れいか）の顔に殴られたようなアザが生じたことからはじまる。
しかし、反抗期をそのまま引きずって父親に塩対応中の娘。下宿先の近く仕事で寄るたび連絡するも疎ましがるような態度の彼女が、正直に話すわけなく……。問い詰められたことに腹を立て、その場を立ち去ってしまうのだった。
「娘に何か起きている」と、不安に狩られる哲雄。合鍵を使ってこっそりと娘の下宿先を覗きに行くと、折しも零花を殴った張本人、延人（のぶと）が部屋にやってきてしまう。
クローゼットに隠れて彼の電話を盗み聞いたところ、これがヤバい。
彼はいわゆるヤクザに近い半グレ集団のメンバーで、哲雄の妻の実家である呉服店のお金を狙っていること。そのお金を巻き上げるために、零花に彼氏ヅラで近づいたこと。
酔うと手がつけられず、過去に女をふたり殴り殺していること。
それをメンバーに処理させて、自分はのうのうと生きていること。
そしていままさに酷く酔っ払っていて、零花を殺すと激昂していること。
このままでは、クローゼットに隠れる自分の命はもちろん、零花が非常に危ないということ。
そしてわかったことは、家族の命を守り、平和な家庭をつくるためには……
この害悪でしかない男を、殺すしかないということ。
完全犯罪を目論む夫婦の決断
娘の部屋に荷物を運びにきた妻・歌仙（かせん）が見たものは、荒れ散らかった部屋に横たわる血まみれの死体と、呆然とする夫の姿だった。
そこで判明したのは、殺されても仕方のない延人の残忍さ。そして、哲雄が反社会的集団を殺してしまったことで、鳥栖家全員に報復の手が及ぶ危険性があるということ。さらに、過去の延人の殺人が隠蔽されていたように、死体を事件性なく処理できる組織が存在しているということなのだ。
「じゃあ、自分たちが同じことをしても、バレないんじゃない？」
報復を受けないように完全犯罪を起こせばいい。なんと夫婦は、家族の幸せを守るために完全犯罪計画を実行するのだった。
哲雄を疑う男との頭脳戦バトル
完全犯罪はそう簡単にいかない。ミステリ好きを活かして、哲雄はあの手この手で「自分たちは犯人じゃない」というトリックを作りあげていく。
たとえば解体した延人の死体（どうやったのかの描写はあまりにアレなので是非読んでみて！）を日常生活のなかで違和感なく処理する術を考えたり、
一家を疑う集団からの目を欺くために、わざわざ盗聴器の前でウソの会話を喋ったり。
しかし、相手側も一筋縄ではいかない。反社会的集団のスキルを駆使して、哲雄と歌仙を追い詰めていく。
特に、この物語で一番の敵となり得る恭一（きょういち）との頭脳戦は、ハラハラしすぎて首の後ろの毛が逆立ってくるレベル。
ど…どうなる哲雄！？ どうなる鳥栖一家……！？
冴えないオッサンの命がけの全力投球
正直、頭脳戦が魅力の漫画なら他にもごまんとある。
この作品の何が面白いって、ごく普通の、最近メタボに悩み、一度も犯罪を犯さずに粛々と生きてきた冴えないオッサンが、命をかけて完全犯罪に取り組む姿があるということ。
しかも相手は人を殺すことを厭わない犯罪集団。
疑いの目が逸れたり逸れなかったり、追い詰められたと思ったらすり抜けざまに傷をつけて。哲雄の姿はまさに、象のような巨躯に、あの手この手で立ち向かう小さな蟻。
「頼む…ッ！！バレないでくれ……ッ！！」と拝みっぱなしになること確実の現在既刊5巻、超疾走のクライム・サスペンス。いよいよクライマックスも見えてきて、いっそう目が離せない作品である。
いや〜これは映像化待った無しですわ……。
主演は滝藤賢一さんか安田顕さんかあたりで……。
