「何もない」がある漫画。サンカクヘッド先生の破天荒すぎるデビュー作『ぽんてら』

レビュー

外では才色兼備の「美妹(びもうと)」、しかし家に帰ると頭身が縮んでグータラな「干物妹(ひもうと)」になってしまう女子高生の生態を描いたギャグ漫画、『干物妹!うまるちゃん』。単行本の累計発行部数は300万部以上を数え、TVアニメも放送されていたため、知っている人も多いはず。

この作品のヒットにより、サンカクヘッド先生は晴れて有名漫画家の仲間入りを果たす。今回は、そんな作者の記念すべきデビュー作『ぽんてら』を紹介したい。『干物妹!うまるちゃん』に比べると絵柄も作風も荒々しいが、ヒロインたちのかわいさや、作者特有のギャグセンスは当時から健在だ。

ぽんてら
©サンカクヘッド/マッグガーデン

「おい、書道しろよ」とツッコんだら負け

物語の舞台は、とある田舎の高等学校。ミサキが所属する書道部に、転校生のハルカや、クラスメイトのチャコとイトリが入部してきて、部室で談笑したり、友達の家に遊びに行ったり、アウトドアを楽しんだりと、騒がしくもにぎやかな日々を過ごしていく。

こう書くと、よくある「部活をしない部活漫画」を思い浮かべるかもしれないが、『ぽんてら』はとにかく部活をしない。全4巻、全31話の中で、まともに書道をしているシーンは1回あるかないかだろう。

原因は、単行本1巻の表紙も飾っているハルカにある。超がつくほどのおバカで、そもそも書道部の活動内容すらよく分かっていない。クーラーをガンガンに効かせてアイスクリームを作ったり、部室を勝手にリフォームしてカオスな空間を生み出したりと、やりたい放題。

そんなハルカに振り回されるミサキが、本作の主人公にあたる。先輩から受け継いだ書道部をまっとうな部活にしようと奮闘するものの、ハルカたちのフリーダムさに感化されて、彼女も徐々に頭のネジが外れていく。

他の部員も、ハルカに負けず劣らずアクが強い。目立ちたがりのチャコは、後から入部してきたにもかかわらず強引に書道部の部長に就任してしまう。ポーカーフェイスのイトリは一見とっつきにくいが意外とノリの良い性格で、ハルカとチャコのボケに便乗してミサキを悩ませる。

以上の4人が、ミュータントにしか見えないケーキを作ったり、湖のヌシを釣りに出かけたり、陸上部と長距離走勝負を始めたり、……いや書道しろよ! とツッコミを入れたらキリがないドタバタギャグコメディ、それが『ぽんてら』だ。間違っても、『とめはねっ!鈴里高校書道部』のような書道部要素を期待してはいけない。

「こんな青空 ここにしかないよ」

単行本3巻のあとがきによると、本作は連載前から4巻構成に決まっていたという。それゆえ、短すぎも長すぎもせず読みやすい巻数でまとまっているのだが、各巻がそれぞれ「起承転結」の役割を果たしているのも見逃せないポイントだ。

メインキャラ4人が書道部に集結するまでを描いた1巻(起)。幼女にしか見えない書道部顧問の設楽(したら)先生、ミサキのライバルを自称する名本(なもと)らサブキャラも出揃い、面白さが加速する2巻(承)。ギャグ要素は残しつつ、しんみりするエピソードも増えてきて物語の終わりを予感させる3巻(転)。書道部が廃部の危機に直面し、4人の心の成長を描いて幕を閉じる4巻(結)。

もし今から『ぽんてら』を読み始める人は、必ず最終巻の4巻まで読み切っていただきたい。これまでのギャグ回でハルカが何気なく言ったセリフが、他の3人にとって重要な意味を持っていたことが最後に明かされるからだ。

かくいう私も初めて読んだとき、よもや『ぽんてら』で泣かされるとは夢にも思っていなかった。ネタバレにならない範囲で、特に印象に残っている「こんな青空 ここにしかないよ」という言葉を紹介してレビューを締めくくりたい。

初出は、1巻の第1話。私の町には何もないと自虐的に話すミサキに対し、転校生のハルカは空を見上げながらこのセリフを発する。あらゆる物事をポジティブに捉えられるハルカならではの発言だ。

しかし、東京に憧れ、田舎での暮らしに飽き飽きしていた当時のミサキには響かない。これが最終巻で、どのような形でミサキのもとに返ってくるのか、ぜひあなた自身の目で確かめてほしい。

『干物妹!うまるちゃん』は、ギャグ漫画や萌え漫画としてはもちろん、兄と妹の絆を描いた家族漫画としても楽しめる奥深さがヒットの要因だったと思う。デビュー作の『ぽんてら』でも、単なるギャグ漫画家に留まらないサンカクヘッド先生の力量の片鱗を感じられるだろう。

ぽんてら/サンカクヘッド マッグガーデン