法廷では、フィクションじゃないドラマが観られる!『裁判長!ここは懲役4年でどうすか』

レビュー

優れたコンテンツに触れると、テーマについて独自に深堀してみたくなったり、それにちなんだ場所に行ったり、似たようなことを体験したくなったりしてしまいませんか?

たとえば『スラムダンク』が流行していた当時、バスケを始めた人が多かったと言います。
最近だと藤井聡太六段の活躍を見て将棋に触れてみようという人が増えたそうですね。
そしてこの作品『裁判長!ここは懲役4年でどうすか』もそんな、つい裁判所に行きたくなってしまう漫画 です。

裁判長!ここは懲役4年でどうすか
©松橋犬輔・北尾トロ/Coamix 2007

めくるめく裁判傍聴の世界を描く

『裁判長!ここは懲役4年でどうすか』は、ふとしたきっかけから裁判傍聴にハマってしまった主人公が様々な裁判を傍聴し、その展開を紹介していく漫画 です。

原作はフリーライター、北尾トロさんの同タイトルのエッセイ。

作中で扱われる裁判事例には、アニメフィギィアを何度も万引きしてしまうヲタク男といったコミカルなものから、家計を助けるために出会い系サイトで会った男と金銭で身体の関係をもった主婦、友達のいいなりになって殺人を犯してしまった男の事件といった重いものまでバリエーション豊かです。

これらの紹介される裁判の数々は、北尾さんが実際に見聞きしたものが元ネタになっているそうです。

裁判ってそんな気軽に見に行って、しかもエッセイとか漫画にしていいのか…と思う方もいるかもしれませんが、傍聴は基本的に誰でも無料でできますし、メモも自由です。

ただし、裁判は主に平日の日中に開かれるものなので、会社勤めをされている方が参加するのはちょっと難しいかもしれません。聞くところによると、お仕事をリタイアされたご高齢の方の傍聴が比較的多いそうです。

とはいえ、ほとんどの裁判がそんな方々はもちろん、我々とも全くと言っていいほど関係ない内容です。

極論、全然知らない人のAさんが、見たことも聞いたこともないBさんに〇〇した…という話をじっと聞いているだけ。
ではなぜ、そんなことを好き好んでやっている人がいるのでしょうか?

法廷には、ノンフィクションのドラマがある

その理由が描かれているのがこの漫画 。
北尾トロさんの原作の味をそのままに、軽快かつユニークな視点であぶり出されるのは、まさに「人間ドラマ」。

我々も普段の仕事や生活のなかで、他人と衝突したり言い合いになることはあるでしょう。
しかし、それは大体その場や後日、本人たちの間で解決されるものです。

裁判で裁かれるのは、もはや本人たち同士で処理できる範疇を超えた問題です。そして、そこに至るまでには必ず、計り知れないドラマがあります。

そんなノンフィクションドラマを間近で視聴できるのが、裁判傍聴なのです。
テレビ越しに知る「他人事」とは一味違うリアリティ。
本作にはその迫力と魅力が描かれています。

ちなみに今年、2018年5月には裁判員制度が始まって10年目にあたります。
そういう意味でもいつか来るかもしれない裁判への関わりに備えるために、読んでおいて損はない作品だと思います。

裁判長!ここは懲役4年でどうすか/北尾トロ 他 ノース・スターズ・ピクチャーズ