妄想でも現実でも好きな子に優しくしたい……思春期の爆発しそうな性欲を抑えられるのか?『思春期エトセトラ』

レビュー

多感な年頃である、思春期。好きな人ができると、ついその人のことで頭がいっぱいになってしまう。性欲も強くなってくる時期だから、いけないとわかっていても、あんなことやこんなことをしたいと考えてしまう。一緒にデートに行く妄想なんかして、だんだんとヒートアップして、たまに夢と現実の区別がつかない瞬間があったりする。
 
そんな思春期のムラムラな妄想事情を描いたBL『思春期エトセトラ』が、色々とぶっ飛んでいて面白い。

思春期エトセトラ
©もちの米/笠倉出版社
 

会った瞬間エッチな妄想ワールドに突入

 
中学の頃に主人公・天野龍吉は、森乙哉に一目惚れをする。それから同じ高校に入学し、二年生になり、龍吉はますます乙哉への想いを燃え上がらせていた。というか、こじらせていた。朝、靴箱の前で挨拶をする。すると一瞬、目の前にいる乙哉は、なんだか上気したような顔になる 龍吉の妄想世界が入り込んだ瞬間だ。
 

 
とにかく、龍吉はその冷静沈着な表情からは想像できないほどに、脳内は卑猥な世界が広がっている。龍吉にとって乙哉は完全にオカズのような存在になっているのだ。
 
卑猥な妄想は行き過ぎだとしても、好きな相手がいつも横にいるとなれば、「この子とこんなことしたいな」なんて考えることは誰だって経験があるだろう。それが「この子と手をつなぎたいな」と思う人もいれば、淫らな想像をしてしまう 人もいる、という話だ。
 

妄想と現実の区別がつかない……

 

 
龍吉は、日に日に過激な妄想を繰り広げるようになるが、乙哉はそんなことを知るよしもない。むしろ、自分に対する龍吉の態度が冷たいのではないか、と怒る始末。しかたない、龍吉は妄想に一生懸命で、目の前にいる乙哉をよそにマイワールドに飛び立ってしまっているのだから。
 
乙哉が龍吉に対して、自分に興味をもってくれないと顔を赤らめながら怒ったり、龍吉がラブレターをもらっていることにショックを受けていたりする描写をみて、読者は早々に「ああ、両片思いなんだな」と気づくのだが、龍吉は妄想に忙しく、そんなわかりやすいサインすら見逃して見当違いの悩みにふけったりしている。
 

 
龍吉がモテていることに我慢の限界がきて、乙哉はあるとき、誰もいない教室で龍吉に抱きつく。いつも妄想の中であんなことやこんなことをしていた相手が、いままさに自分の胸に顔を埋めている。その光景をみて、龍吉は「これが現実なワケがない」と判断する。そしたらもう簡単である。いつも通りの卑猥な妄想の続きを行えばいい。
 

 
龍吉はためらいもなく乙哉にキスをし、反応もみないうちにワイシャツを脱がし、誰もいない教室で困惑する乙哉を無理やり犯してしまう。しかし、何度もイメージトレーニングをしていたせいか、むしろもたつきのないスムーズなセックスが実現。帰り道、あんなの信じられないと怒られるものの、龍吉は「まだ現実だという実感も湧いていない」としれっと言い放ち、乙哉をきゅんとさせてしまう。それは、「好きな人と結ばれて嬉しくて夢心地だ」という意味ではなく、普段の「妄想」と「現実」の区別がついていないという意味なのだが。
 

妄想でも現実でも優しくしたい!

 
この作品のいいところは、アブノーマルな性的嗜好を妄想で楽しんでいた龍吉が、ずっと片想いをしていた相手を結ばれたことで、「大切にしたい」と思うようになるところだ。
 

 
龍吉が、とうとう現実の乙哉に目を向けるようになった。どうしてもBL作品は「性的合意がない状態」で「無理やり」ヤる、という流れが多いのだが、この作品はその後の龍吉の心境の変化も描いていて、微笑ましい。妄想と暴走から始まった関係も、結ばれたあとにちゃんと相手をみようとすれば、関係性はより深まっていくものだ。
 
ちなみに、この作品には表題作に加えて、女性服に憧れをもつ17歳の少年と、彼の女装の願いを叶える歯科医の物語「センチメンタルドレスコード」も含まれている。てっきりピュアな少年の心情にフォーカスされるのかと思いきや、こちらはいい歳した歯科医が大人になりきれずに葛藤する様子が描かれていて面白い。
 

 
勝手に相手の心情を想像して、あることないこと考えているのは、高校生の龍吉と大差ない。思春期ってたぶん、年齢だけの問題じゃないのだ。
 
相手のことを慮る余裕がなく、つい自分の妄想ばかりが先走って、相手に無理やり迫ったり、ひとりで悩みこんでしまう。そういう思春期特有の心情が描かれた一冊だ。
 
 
思春期エトセトラ/もちの米 笠倉出版社