巧みな心理描写に引き込まれる!「普通」の男の子の波乱万丈な人生を描いた『おやすみプンプン』がすごい

レビュー

思春期に何を考えて過ごしていたか……。
 
読者の皆さんは覚えていますか?
 
怒り。希望。恥じらい。反抗心…
 
多感な思春期にしか感じることができない気持ちや感情は、意外とたくさんあったよなぁ。なんてふと思うことがあります。心の中でモヤモヤと黒い感情が膨れ上がって胸が痛くなるあの感じは、大人になった今となっては懐かしいものです。

 
今日ご紹介する『おやすみプンプン』は、「思春期の少年の心の闇」を緻密に描いた作品です。きっと「ああ、こういう感情になったことがあったなぁ」とついつい共感してしまうことも多いと思います。
 

おやすみプンプン
©浅野いにお/小学館
 

<ある事件をきっかけに、波乱万丈な人生に…

 
母は入院、父は蒸発。「フツー」の小学生だったはずのプンプンの人生は、波乱万丈に変わってしまいました。
 
プンプンは、ある日同じクラスに転校してきた田中愛子に一目惚れ。「宇宙の研究者になりたい」という夢を肯定してくれた愛子に対して「運命の人かもしれない」と思うようになります。
 
本作品は、主人公の「プンプン」が成長して大人になっていく過程を描いた作品です。どこにでもいそうな少年である彼が、ある日を境に厳しい状況に飲み込まれていく。そんなプンプンの姿がコミカルに、かつシュールな作風で描かれています。
 

 
この、鳥のような姿をしているのがプンプン。
 
プンプンは人間の男の子ですが、作中ではこのようにデフォルメされています。プンプンの心境によって描かれる姿が変化することもあり、作品の中で重要なメタファー(隠喩)になっているのが面白いです。
 

作者は、『ソラニン』の浅野いにおさん!

 
ちなみにこの作品を手がけたのは、大ヒット作『ソラニン』の作者でもある漫画家、浅野いにおさんです。浅野いにおさんの作風は重くて暗いタッチのものが多いのですが、本作品の中でも、その独特の世界観はいかんなく発揮されています。
 
放課後にみんなでエッチな本を探したりするような「平凡な男子小学生の日常」を描くかたわらで、地域の「怪しい新興宗教の姿」を切り取っていたりもする。本来なら結びつかなさそうな2つの世界観を繋げてしまう斬新な描写には、どこか浅野いにおさんらしさを感じさせます。
 

 

巧みな心理描写に引き込まれる

 
コミカルなのに、ひたすら鬱々としている。あまりの衝撃に気分が沈んでしまうこともあるけれど、続きが気になって次々とページをめくってしまう。読み進めるうちに、この不思議な感覚にハマっていくのが『おやすみプンプン』の魅力ではないでしょうか。
 
また、本作は心理描写が非常に細かく、プンプンの繊細な感情の機微がうまく表現されているのも見所のひとつ。
 

 
「宇宙を研究する学者になりたい」という将来の夢を馬鹿にされるのが怖くて、「普通のサラリーマンになりたい」と嘘をついたり、性に目覚めた途端、大好きな愛子ちゃんを直視できなくなってしまったり……。
 
成長とともに、私たちが感じたことがあるような「気まずさ」や「苦悩」、「後ろめたさ」を経験するプンプン。その姿にはついつい共感してしまうこともあるし、なんだか思春期にした恥ずかしい失敗を思い出して、目をそらしたくなってしまうこともあるし……とにかく、感情移入せずには読めないのがこの作品のすごいところです。
 
本作品は全13巻ですでに完結しているので、読み始めたら最後まで一気に読んでしまうこと間違いなし。読んだ後、必ず誰かに話したくなるので、ぜひ一度読んでみてください。
 
 
おやすみプンプン/浅野いにお 小学館