ありそうでなかった、リアルタイム家族漫画『よっけ家族』

レビュー

年を取ると、食べ物の好みが変わるように、漫画の好みも変わってくる。

かくいう筆者も、かつては萌え漫画やラブコメ漫画ばかり読んでいたが(いまも読んでいるが)、最近は「家族漫画」にも手を出すようになってきた。

親子や夫婦、兄弟や姉妹の他愛ないやりとり。それらを眺めているだけでほっこりしたり、ときには涙さえ流すようになったのは、ひとり暮らしを始めて10年以上が経ち、自分の中で「家族」が「漫画の世界」だけの存在になりつつあるせいかもしれない。

『うさぎドロップ』や『よにんぐらし』など、これまでに数多くの「家族漫画」を手がけてきたのが宇仁田ゆみ先生。今回ご紹介する『よっけ家族』は、作者の出身地である三重県を舞台にした作品だ。

よっけ家族
©宇仁田ゆみ/竹書房

4世代12人の田舎暮らし

『よっけ家族』は、三重県の田舎で暮らす、4世代12人の大家族の日常を描いた物語。

特定の主人公はいないが、作中のナレーションは30歳(連載開始時)の会社員・駿太郎が担当していて、序盤のストーリーも彼を中心に進んでいく。

東京の会社で働いていた駿太郎は、三重への転勤辞令をきっかけに、妻のカズホの実家で義父母や義兄夫婦と同居することになる。

引っ越し当日、実家の最寄り駅についた駿太郎たち。カズホの兄・幸一が迎えにきてくれるはずだったが見当たらない。幸一に電話をかけるカズホ。

その日から、カズホは方言女子になった。……というより、戻った。ちなみに、タイトルの「よっけ」は、三重県の方言で「たくさん」という意味だ。

駿太郎は、いわゆる婿養子ではない。『サザエさん』でいえばマスオさんポジション。

そのマスオさんのように、昔から義父母と一緒に暮らしているならまだいいが、転勤のため急に同居することに。しかも、義兄夫婦には子どもがすでに4人もいる。

さぞかし、肩身の狭い思いをしているのだろうと思いきや……。

めっちゃなじんでる。婿いびりなんて概念は存在しない、やさしい世界。

子どもたちの成長スピードがやばい

そんな本作の最大の特徴は、作中の時間がリアルタイムで進行していく点にある。

雑誌で春に掲載される話なら、卒業式や入学式の話。夏なら七夕や夏休みの宿題の話。そして、1年経てばキャラクターたちも年を取る。連載が始まったのは2012年なので、すでに6年の歳月が経過している。

第1話の時点で小学6年生だった幸人は、高校3年生に。幸人には同い年の幼馴染・恭子がいて、本作では貴重なラブコメ要員でもある。

赤ちゃんだったももかは、小学2年生に。10歳近く年が離れている兄たちよりも弁が立ち、早くも一家のヒエラルキーの頂点に君臨しつつある。

引っ越してきたときは子どもがいなかった駿太郎とカズホの夫婦にも、3巻で待望の第一子・ユキホが生まれ、一家はいまや12人の大所帯になった。

本作のリアルタイム感を存分に堪能したい人は、ぜひ「まんがライフオリジナル」(竹書房)の連載を追いかけてほしい。……が、単行本でまとめて読むのもそれはそれで面白い。

単行本1冊につき1年強(13~14ヶ月)の時間が流れるため、ものすごいスピードで子どもたちが大きくなっていくからだ。「あんなに小さかった子が、いつの間にかこんなに大きくなって……」と、たまにしか会わない甥や姪を見たときのような気分を味わえるだろう。

受け継がれていく命

だが、子どもたちが成長しているということは、大人たちも同じだけ年を重ねているということ。

一家の最年長・やゑ。孫にあたる幸一が40代前半だから、90歳近い高齢だろう。

言葉や足腰はしっかりしているものの、いつ亡くなったとしてもおかしくない。4巻の第46話は、それを示唆するエピソードとなっている。

昔からの友達がどんどん減っていくと寂しそうに語るやゑに対し、自分にはたくさん友達がいると無邪気に話すももかと、少し気まずそうな表情を浮かべる健人。

健人も、連載が始まったころはまだ小学3年生だった。彼も中学生に上がり、死の意味がはっきりと理解できる年齢になったことがうかがえるシーンでもある。

もちろん、やゑがももかの発言で気分を悪くするような展開にはならない。未来への希望にあふれたひ孫たちを見守る彼女の表情は、いつも穏やかだ。

もしこのまま連載が続いていけば、いつか「家族が減る」日がやってくるかもしれない。

登場人物の死は、大抵の漫画では読者に悲哀や恐怖の感情を与えるために使われる。しかし、本作なら別の描き方をしてくれるのではないかと思う。

花が枯れたら種ができ、その種から次の芽が顔を出す。ひとつの命の灯が消えたとしても、いつかまた新しい命が生まれる。いつまでも続いていく大家族の絆の物語を、これからも見届けていきたい。

よっけ家族/宇仁田ゆみ 竹書房