神社・お寺・教会の後継ぎによる宗教コメディ『さんすくみ』

レビュー

だいたい3人組、いわゆるトリオはなにかと創作物において、トラブルなり大きな出来事なりを起こしがちなのだ。『ズッコケ3人組』しかり、『絶対可憐チルドレン』しかり。
 
さて、これは宗教に関しても同じことがいえるのかもしれない。
 
今回紹介する『さんすくみ』は、神社、お寺、教会、それぞれの跡取り息子で幼馴染の若者3人組が繰り広げる、ドタバタ宗教コメディ漫画。

 
広大な大地に悠久の歴史、神の使いの鹿は今日も伸び伸びと暮らし……そんな長閑な奈良の地で、今日も3人のトラブルに嘆く阿鼻叫喚が繰り広げられている。
 

さんすくみ
©絹田村子/小学館
 
主人公はその1神社の息子・恭太郎。
 

 
ヘタレで気が弱く、極度の雨男。超ド級の甘党で、甘味を見ると他のことが手につかなくなることもしばしば。霊感はゼロだが、怨霊よりも怖いから母親を持つ。
 
2人目は、お寺の息子・孝仁。
 

 
一見しっかりしてそうに見えるが、強い霊感を持ち、オカルトが絡むと極度のビビリになる。寝る前の読経は欠かせない真面目人間。
 
3人目は教会の息子・工(たくみ)。
 

 
宣教師として来日したドイツ人を祖父に持つクォーター。神学生として勉学に励む一方、オカルト現象やスプラッター映画が大好きで、しばしば神学生としての本質を忘れがち。
 

「三人寄れば文殊の知恵」どころか……

 
宗教も宗派も教えも違う3人は、それぞれの立場を超えた友人同士。というか、だいたい誰かがトラブルを起こして、残りが回収に奔走する。もしくは3人仲良く大目玉をくらうか痛い目に合う。
 

そう、彼らはまごうことなきアホなのである。


 
 
例えば、とあるトラブルがきっかけで御朱印のストックがなくなった恭太郎。自分の筆圧が弱すぎて御朱印をかけず、孝仁を呼び出して御朱印を書いてもらったり。
 

 
幽霊が怖い孝仁に「色欲にまみれたことを嘯けばいい」と工が吹き込み、深夜の墓場で「女社長…キャビンアテンダント…女警察官……」とブツブツ呟き続ける変態坊主を生み出したり。
 

 
工が在籍する大学の神学部、その中間発表で発表する資料が入ったUSBメモリを恭太郎とが誤って持っていって、いろんな嘘で発表を延ばしながら、メモリの確保に奔走したり。
 

 
穢れを忌む神社で、例祭用の大切な衣装を血で汚してしまったり(しかも遊んでいて)。

そう!彼らはまごうことなきアホなのである!!

 
そのあと恭太郎のお母さんに3人揃ってボッコボコに怒られる。
 
「三人寄れば文殊の知恵」なんて言葉があるが、アホアホプップーの彼らは、何か起きればダメなのだ。そりゃあ時にはうまくいくこともあるけれど、互いが互いの足を引っ張りあって(しかもそれぞれ良かれと思っている)なかなかうまくいかない。どったんばったん大騒ぎなのである。
 

でも神社・寺・教会の特徴も学べる

そんなお騒がせな彼らだが、なにも周囲を騒がせたくてやっている訳ではない。普段はいたって真面目に日々の業務に取り組んでいる。
 
『さんすくみ』は、3人が起こすゴタゴタにゲラゲラ笑いつつ、神社・寺・教会の特徴もしっかり学べる漫画になっていて、コメディ部分と学べる部分がいい感じに同居しているのだ。
 

 
寺で重要視する「お彼岸」の意味がわかりやすく解説されているし、
 

 
プロテスタント系の教会で行われる、キリストの死と復活を記念する儀式にも触れられている。
 

 
恭太郎も、普段の業務に加えて定期的に雅楽の練習をしている。神道系の学校では授業のなかに雅楽や能楽の授業などがあるらしい、とか。
 
季節の移ろいのなかで発生するそれぞれの行事、宗派による教義の違いなども読み進めていくうちに自然と知識としてみについてくることだろう。
 

「笑い」「学び」「涙」がバランスよく配された漫画

 
『さんすくみ』はちょうど10巻で完結の漫画だ。
 
最初は彼らのドタバタぶりが目立つが、巻数を重ねて季節が巡り、そして3人が宮司や住職、牧師へのキャリアを積んでいくなかで、少しずつ苦悩や決断を重ね、大人へなっていく姿にも注目したい。
 
笑う部分かと思えば学びも多く、そしていつの間にやらジンとくる、「笑い」「学び」「涙」がバランスよく配された漫画である。
 
ああなるほど、そんな得意と苦手を分かち合いつつ、互いに良き好敵手であり親友であり続ける3人の「さんすくみ」の姿に心を動かされるのかな?と 読了後、ちょっと思ったり思わなかったり。
 
 
さんすくみ/絹田村子 小学館