純粋でまっすぐな情熱がまぶしい!ロケット打ち上げを目指して奔走する『我らコンタクティ』

レビュー

宇宙へロケットを打ち上げる。『我らコンタクティ』は、そんな“夢”に向かって奔走する物語である。それは惑星探査のためでもなければ、宇宙の真理を解き明かすためでもない。
 
目的は1つ。映写機とフィルムを一緒に飛ばして、宇宙空間で映画を上映すること。ただ、それだけ。

 

我らコンタクティ
©Rui Morita/講談社
 
荒唐無稽だと笑うだろうか。けれども、無謀な挑戦を試みる2人、“椎ノ木カナエ”と“中平かずき”の純粋でまっすぐな情熱を目にすれば、強い感動を覚えるに違いない。
 

 
主人公の椎ノ木カナエは、冴えない日々を送る会社員。退職を考えながら歩く帰り道、小学校時代の同級生、中平かずきと再会する。小学生当時、明るく元気なカナエは、女子のリーダー格だった。一方、かずきは友達が1人もいない変わり者。時を経ても、両者のキャラクターは相変わらずのようだ。
 
見せたいものがあると告げられ、かずきの実家である工場へと連れていかれるカナエ。そこで目にしたのは、彼が1人で開発に勤しむロケットだった。その仕上がりは本格的で、打ち上げを見据えた燃焼実験を成功させるほど。会社員としての生活に嫌気がさしていたカナエは、「金になる」というよこしまな気持ちから興味を示すも……。ロケット開発に取り組むかずきの目的を知ってからは態度を改める。
 

 
話は、2人が小学校3年生のときにさかのぼる。体育館で映画鑑賞会が行われた翌日、カナエとかずきは、まばゆい光に包まれたUFOを一緒に目撃していた。当時の光景が今でもかずきの頭から離れない。聞けば、「あのときのUFOに鑑賞会で感銘を受けた映画を観せたい」という一心で、ロケットを開発していたのだという。心に響くところがあったのだろうか。その話以降、カナエはかずきに対して協力的に。2人は心を1つにしてロケット開発に取り組む。
 

 
宇宙人との“接触”を試みる過程を通して、周囲にいる人間の心に触れていく描写も素敵だ。他人を妬ましく思う気持ちから、つい身の回りの物に火をつけてしまう梨穂子や、かずきと上手くいっておらず、酒癖の悪い兄のテッペイ。彼らが抱える心の闇を解きほぐし、活動に巻き込みながら、カナエとかずきは、宇宙空間で映画を上映するという目的に向かって、まっすぐに突き進んでいく。
 

 
ゴールにたどり着くにためには、成功までの道筋を逆算し、綿密に計画を立てることが大切だ。にも関わらず、2人はロケット開発に熱中するあまり打ち上げの具体的な手順をはじめとする諸々は、ついそっちのけに。だから、法律、警察、宇宙開発機構、さまざまな問題や組織が、2人のロケット計画の前に“壁”として立ちはだかる。そもそも、一般人がロケットを簡単に打ち上げられるはずがない。
 

 
それでも、強い信念を持っている人間の気持ちは折れない。ときには、打ち上げ禁止を告げる敵に懐柔されたふりをしたり、監視の目をかいくぐるため海を泳いだり……。強引な手段を使ってまで、打ち上げをなんとか試みる。純粋でまっすぐな情熱をもって、2人はあらゆる障壁を乗り越えようとする。その愚直な姿や一生懸命さは、とてもまぶしい。きっと、あなたもその光景に心を打たれるはずだ。『我らコンタクティ』、ぜひ一読してみてほしい。
 
 
我らコンタクティ/森田るい 講談社