笑えて泣けてやっぱり笑える。5歳のふじおの大冒険『サヨナラコウシエン』

レビュー

「自分に子どもがいたら◯◯したい」という類の想像は、多くの人がすることがあるだろう。そして漫画好きであれば、「自分に子どもがいたら、この漫画を読ませたい」なんてことを考えるものだ。
『サヨナラコウシエン』(天久聖一)は、筆者の考える、最近の「もし自分に子どもがいたら読ませたい漫画」のひとつだ。

おじいちゃんのボールを探して、ふじおは未知の世界へ挑む

サヨナラコウシエン
©天久聖一/リイド社

主人公のふじおは、大好きなおじいちゃんと両親と暮らす「もうすぐ6さいの5さい」。
物語は、大好きなおじいちゃんがある日突然亡くなってしまうところから始まる。
高校球児だったというおじいちゃんの形見として、元チームメイトから受け取った野球ボールを、ふじおは遠くに投げてしまった。
その夜ふじおは、おじいちゃんの履いていたわらじを履いて、このボールを探す旅に出るのだ。

落とし物は交番に届くもの。そう思って交番に向かったふじおは、そこで不思議なハエのブン太に出会う。
ブン太はふじおに、「ボールは甲子園に行っているはずだ」「甲子園に行くためには予選を勝ち抜かなければならない」と教える。
そうしてふじおはブン太を相棒に、「甲子園」を目指して歩きながら、数々の「予選」に挑んでいく。

ギャグだけどメルヘン、メルヘンだけどギャグ

著者の天久聖一氏は、ドラマ化も決定した『マンガ サ道』やカプセルフィギュア「コップのフチ子」などの作品でも話題のタナカカツキ氏とのコンビで、『バカドリル』などを発表してきた経歴を持つ漫画家。
その独特のギャグセンスは本作でも存分に発揮されており、ちょこちょこ登場するしょうもないネタや、どこかで見たような造型のキャラクターには笑わされつつ思わず脱力してしまうが、本作のキモはそのギャグと絶妙なバランスを保つ、ハートウォーミングなメルヘン描写だ。

ふじおがさまざまな「予選」を経てちょっとずつ成長していく姿がファンタジックに描かれていく様子は、絵本か児童書のようで、不思議な懐かしさを感じさせると同時に、いつのまにか読者はふじおを自分の子か、あるいは孫のように愛おしく感じるようになっているのだ。

ふじおと一緒に、大切なことを思い出そう

全編をつらぬくシンプルで力強いストーリーと、結末に近づくにつれて明らかになる、その中に託されたメッセージは、大人の心にずっしりと響く。
しょうもないネタに笑いながら、いつのまにか目に涙が浮かぶ。
そして、デフォルメされた絵柄や、小さな子どもが大好きな種類の下ネタギャグも含まれる本作は、絵本か童話、児童書のようでもあり、子どもが読んでも楽しめる作品であると思う。
これから成長していく子どもにも、疲れた大人にも大事なことを教えてくれる、思い出させてくれる1作だ。

サヨナラコウシエン/天久聖一 リイド社