絵に描いたような幸せまでは求めないけど、それなりに堅実に、不幸にならないように。
大体60点くらいの人生が送れたらそれでオッケー。
景気が上向きになってきたとはいえ、将来はいつだって不透明。
だから普通の生活を求めるのは主として正しいのかもしれない。だけど、どこかもやもや……。
安定した生活を求める自分に対して、少しでもわだかまりを感じる人に読んでもらいたいのが『セクシー田中さん』です。
タイトルからギャグ漫画を想像する方もいるかと思いますが、否。
本作は、こじらせ20代30代女子にこそ読んでもらいたい、女性にとってのバイブルなのです。
リアルな心理描写に心がヒュッとなる
主人公の朱里は、就職活動に励むもうまくいかず、派遣OLとして働く23歳、独身・彼氏なし。
はじめてもらった給与明細の額面を見てひとりで生きていくことは無理だと悟り、安定した生活を送るために婚活に力を入れる毎日を過ごします。
“サイアク不幸にならないためのリスクヘッジがしたいだけ”
“ちやほやしてくれる男性もこの先きっと一人また一人減っていく”
合コンへ行っては若さとかわいさで男性に媚びる朱里。かつて好きだった学生来の友人、進吾との関係も宙ぶらりんのままで、どこか今の生活に違和感を感じています。
朱里が持つ「若さ」「かわいさ」の2枚のカードは効果に期限があるもの。冷静に自分の価値を見極めてカードを切る朱里に、女性のリアルを感じます。うん、わかる。人生のピークって高校生だと思っちゃうんだよな……だって無敵だもん。
ゴーイング・マイ・ウェイにしびれる
自分の生き方に疑問を持つ朱里を導くのが、この漫画のタイトルにもなっている”田中さん”の存在です。
朱里と同じ会社で働く田中さんは語学堪能、仕事はスピーディーで的確にこなす才女。
しかし対外的なコミュニケーションをほとんど取らないため、社内では変人扱いされています。
“田中さんは気にしない”
“なぜなら彼女には居場所があるからだ”
ひとつ結びにメガネ、存在感を出さない田中さんはとても地味なキャラ。
しかし、彼女の体つきが妙にセクシーであることに人知れず気づいた朱里は、田中さんに裏があるのではないかと興味津々に。
そしてある日その理由を知った朱里は、どんどん彼女に惹かれていきます。
自分の生き方、居場所をもつ田中さんと、人生、居場所を探して迷子中の朱里。
真逆の立場の二人は、互いに勇気づけ合いながら自分らしい生き方を模索していきます。
人生、どう過ごす?
敷かれたレールの上を進んでいくのもいいけれど、時に脱線してみるのも気持ち良いかもしれない。
『セクシー田中さん』は、今とは違う自分になるためのファーストアクションを後押ししてくれる作品です。読み終わったらきっと心のもやもやが晴れ、高揚感であふれているはず!
『セクシー田中さん/芦原妃名子 小学館』