すべての会社員に刺さる『ウサギ目社畜科』は、フリーライターにも刺さる内容だった

レビュー

長時間労働にパワーハラスメント。プライベートの時間や、ときに自尊心をも犠牲にしながら働き続ける人々の悲哀を描いた「社畜もの」は、いまや漫画界の一大ジャンルと化している。

まじめに労働問題に切り込む作品も中にはあるものの、大半は社畜あるあるネタが中心のギャグ漫画だ。笑い話にでもしなければやっていられない、ということかもしれないが……。

『ウサギ目社畜科』も、そんな社畜コメディのひとつ。キャラクターたちの社畜っぷりはかなり深刻だが、絵柄のかわいさでだいぶ中和されている。

ウサギ目社畜科
©藤沢カミヤ/集英社

ただ、この漫画、私のような会社に属していないフリーライター(特にWEBライター)が読んでも身につまされる内容となっている。

今回は、フリーライターという立場の人間から見た、本作の見どころを紹介していきたい。

働けるうえに、お金までもらえるなんて!

ブラック企業で社畜生活を送る真司郎の部屋に、ウサギのふわみが訪ねてきた。月でモチをつく仕事をしていたが、リストラされて地球に捨てられてしまったのだという。

自分を雇ってほしいと懇願するふわみに対し、体よく追い出すために「掃除・洗濯・料理・その他諸々で月給1円」という滅茶苦茶な条件をつきつける真司郎。

しかし、ふわみは怒るどころか、「やとっていただいて、おかねまでもらえるのですか~!?」と感激する。

月の仕事は、24時間労働で無賃金が当たり前。ふわみたちウサギにとって、働けるという「やりがい」こそが何よりのご褒美なのだ。

月給1円はさすがに大げさだとしても、「好きなことを仕事にしたい」という心理を利用して不当に安い賃金で働かせる、いわゆる「やりがい搾取」の事例は、現実世界にも存在する。

ライター業界もしかり。記事作成の仕事をネットで探せば、「ライティングのスキルが身につく」と謳う文字単価0.1円(2,000字書いて200円)の案件が大量にヒットする。まさに「記事が書けるうえに、お金までもらえるなんて!」状態。

かくいう私も、ライターとして初めて受注した仕事の単価は、1記事50円だった。ふわみにあの仕事を紹介すれば、涙を流して喜ぶだろう。記事を1本書くだけで、月給の50倍も稼げるのだから……。

あなたの代わりはいくらでもいる

そもそも、ふわみがなぜリストラされたかというと、月の労働力が供給過多になっているから。

月に住むウサギの数は増え続けていて、みんな「働きたい」という強い願望を持っている。だけど圧倒的に仕事が足りない。

そのため、少しでもミスをしようものなら即クビ。ふわみも、たった一度の居眠りを咎められ、問答無用で地球に飛ばされてしまった。

供給過多の問題は、ライターにとっても決して他人事ではない。

働き方改革の一環で、政府が正社員の副業を後押しする方針を打ち出している昨今。副業の手段の中でも特に人気なのが、パソコンさえあれば誰でも始められるライター業だ。

納期に度々遅れたり、ネット上の記事を盗用したりするライターは、ふわみのように容赦なく切り捨てられるに違いない。ライターの代わりは、いくらでもいる。

指示されるだけの労働の、その先へ

月でリストラされたウサギは、ふわみだけではない。途中から、ふわみの後輩であるもふこも地球にやってきて、2匹で真司郎の部屋の家事を分担するようになる。

しかし、社畜生活を送る会社員の部屋の広さなどたかが知れている。すぐに仕事が終わってしまい、ふわみたちは働けないことによる禁断症状に苦しまされる。

ライターに置き換えると、クライアントから依頼された今月分の記事を早々に書き終えて、次月まで仕事がない状態。正社員なら有給を取れば済む話だが、フリーランスのライターは、休んだ分だけ収入が減る。

そんなある日、ふわみたちは河原のダンボールハウスで暮らすウサギ・ましろに出会う。

ましろは人間に雇われていない。率先してゴミを広い、まだ使えそうなものは道端で売る。自ら仕事を生み出しているのだ。仕事は誰かに与えられるものだと思い込んでいたふわみたちは、こんな働き方があったのかと衝撃を受ける。

「ただ命じられた仕事をこなしていて幸せなのか?」「生きるために働くはずが、働くために生きてやしないか?」

ふわみたちを啓蒙するましろの言葉は、フリーランスになったはずなのに、結局誰かに指示された記事ばかり書いているライターには特に響くのではないだろうか。……まあ、そのライターって私なのですが。

かわいらしい絵柄とは裏腹に、現代日本における労働環境の問題点をシニカルに描き出す『ウサギ目社畜科』。会社員の方はもちろん、私のようなフリーライターの方々も共感できるはずだ。

それでは最後に、みなさんご一緒に。

ウサギ目社畜科/藤沢カミヤ 集英社