きっとあなたも主人公の女子力、主夫力に「ウッ」ってなる『極主夫道』

レビュー

私ごとで恐縮だが、現在こうしてライターなどの仕事をしているかたわら、主夫としても生活している。
料理や洗濯、掃除など、普通のことならある程度はこなせる自信がある。
しかし、誰かに何かを言われることがない分、ついついサボってしまうことも。
「あかんわ…やらなあかんわ…」と思いながら布団に潜ってしまい、昼寝することもしばしば。起きた時の後悔が半端ない。まじであかんわ。
そういう状況なので、今回レビューさせて頂く『極主夫道』を読むと、笑いながらも主人公の女子力、主夫力の高さに「ウッ」と思ってしまう。

極主夫道
©おおのこうすけ/新潮社

裏社会で数々の伝説を残してきたヤクザ、通称「不死身の龍」(ふじみのたつ)。
しかしその世界からは足を洗い、その後彼が選んだ道は「専業主夫」だったーーーというのが『極主夫道』の簡単なあらすじ。
公式サイトの紹介では「アットホーム任侠コメディ」と紹介されている。文字面が強いですね。
そしてその紹介通り、とてもアットホームなのにそこかしこに任侠っぷりが感じられる作品だ。

例えばこれ。
卵焼きを切ってお弁当箱に詰めているシーン。かわいいクマさんおにぎりや焼いたウィンナーも入っている。おいしそう。
しかしよく見ると、卵焼きを切っているのは包丁ではなく、ドスだ。ヤクザがよく持っているイメージの強い、あれ。
「スッ」「カサッ」じゃないと思います。スーツにエプロンもおかしいし。
『極主夫道』がどういう漫画かは、この場面で分かって頂けるはずだ。

ではここからは私が見て、主人公、龍の女子力、主夫力の高さに「ウッ」となったシーンのご紹介。

これは怪しい営業マンが売り込んできた包丁を使ってハンバーグプレートを作る、という話の一場面である。
出来上がったハンバーグには魚のすり身が使われていて、口当たりが優しいそうです。うまそう。大人のお子様ランチだ。
で、ここで注目して頂きたいのはケチャップライスに刺さっているクマの旗。

…買ったの?
自宅でこういう旗立てたことありますか?
私も時々、家でチキンライス作るけど、旗を立てたことはない。確かに立てると「わ!ハンバーグプレートだ!」って大人でもなる。
これは参考にしたい。うちの子も喜んでくれそう。
というか小学生のお子さんのいるご家庭であれば、まず間違いない飾り付けだろう。
これが一つ目の「ウッ」ポイント。

続いてはこちら。
話としては、近所の奥さんからしばらく子どもを見ていて欲しいと頼まれる、というもの。
見た目の怖いおじさんと2人きりになった男の子。そりゃ嫌でしょ。前のページでは帰ろうともする。
そこで龍は、自分で焼いたクッキーを出して、引き止めるのだ。
ここで目につくのはやはり「自分で焼いたクッキー」ではあるが、私が注目して欲しいのはクッキーの下に敷かれた紙である。

花柄のかわいいシート。お皿に直接乗せるよりも、見た目が華やかになる。こういう細かな心遣い、私にはなかった。「これがインスタ映えか…」と思った。
クマさんクッキーの顔の向きをしっかり揃えているのもいいし、男の子向きに見せてるのもいい。
ハサミを相手に渡す時、刃は自分側に、持ち手を相手側に。そういうことができる男なのだ、龍は。
あとクマ好き過ぎる。

このページだけ抜き出すと「何やってんだ…」って思いますね。
これはヤクザ時代のライバル、通称「剛拳の虎」(ごうけんのとら)と、自分が作ったスイーツの写真でどれがけインスタのいいねがもらえるか勝負する、という話のワンシーンだ。この説明でピンと来なければぜひ読んでください。
なるべく「映え」るようにいろんな場所に置いて、いろんな角度から撮影している。非常に熱い闘いである。

それだけでも女子力高ぇな!とはなるが、真の「ウッ」はそこではない。このページの最後のコマをよく見て欲しい。

龍のアカウントのアイコンが猫。猫だ。猫なんだ。
女子かよ!
よぉく見ると、飼い猫である銀の写真だ。飼い猫の写真をSNSのアイコンにしている。

私はこれを参考に、以前動物園で撮った羊の写真を仕事のやり取りをするチャットサービスのアイコンにした。
少しは話の堅苦しさがやわらぐかな…と思って…。

このように、龍の女子力、主夫力に私は「ウッ」となってしまう。レベルが高くて追いつける気がしない。
紹介した以外にも「ウッ」ポイントはたくさんあるし、家事をする上で参考になるシーンも数多い。
もちろんギャグ漫画としても読めて、主夫にとっての教科書にもなり得る。
ただ、この場を借りてひとつ、この漫画のキャラクターの一人に物申しておきたい。

龍のヤクザ時代の舎弟、雅(まさ)。
主夫の道とヤクザの道は繋がっては、ない。

極主夫道/おおのこうすけ 新潮社