イケメン“悪魔”が生活改善をサポート!?睡眠導入コメディ『はたらけ!睡魔さん』

レビュー

突如やってくる強烈な眠気。それは、大事な会議中だったり、終わらせないといけない仕事の最中だったり……。筆者自身、納期が迫った仕事を前に、眠りの誘惑に負けた夜もしばしば。「明日の自分がなんとかしてくれるはず」と高をくくって、翌日後悔したことがほとんどだ。睡眠欲は、結構な頻度で僕らの邪魔をする。“睡魔に襲われる”という言葉があるけれど、これは言い得て妙。急に訪れる眠気は、確かに悪魔の仕業みたいだ。

嶽まいこ先生の『はたらけ!睡魔さん』は、そんな“睡魔”を擬人化したコメディ漫画である。主人公は、広告業界で働くアラサーの羊子(ようこ)。やりがいを感じて仕事に取り組んでいるものの、ハードワークがたたって慢性的な寝不足状態。いつものように終電を逃して、オフィスのトイレでついウトウトしていると……。彼女の前に、睡魔のネロが現れる。彼は、羊子を担当する睡魔として魔界からやってきたのだ。
 

はたらけ!睡魔さん 分冊版
©嶽まいこ/祥伝社
 

 
悪魔の一種ではあるものの、睡魔は人を取って食うような恐ろしさは持ち合わせていない。どこか親しみやすい存在であり、その実態は、睡眠不足気味の人間を寝かせることで給料を得ている会社員。おまけに、ネロのルックスはイケメン風でスラリと背が高く、性格はクールだ。こうして、寝る間を惜しんで働く羊子、彼女をなんとか眠らせようとするネロ。2人の奇妙な日常がスタートする。
 

 
こう説明すると、“特殊能力で眠気を誘って、仕事の邪魔をする睡魔とのドタバタコメディ”といった物語の筋を想像する方がいるかもしれない。しかし、睡魔であるネロは、羊子にしっかりと睡眠をとらせるために、本質的な解決策を探る。仕事の要領は悪くないか、押し付けられた仕事を背負いこんでいないか、そもそもスケジュールに無理はなかったか……。なぜ羊子が睡眠時間を確保できないのか、という問題に対して向き合う。それも真正面から。確かに睡眠時間を削ってまで働いている時点で、どこかに問題があるのだろう。羊子は生活を変えていこうと決意する。
 

 
生活スタイルや働き方に関して考えを深めさせる一方で、ラブコメ的な要素も本作の見どころの1つ。“質の高い睡眠”を得るために2人で努力するにつれ、羊子はネロに対してどんどん親しみを覚えていくものの……。生活リズムが規則正しくなるにしたがって、当然、睡魔の助けは不要に。1つの目標に向かい、力を合わせれば合わせるほど、羊子とネロの別れが近づいていく。果たして2人は、どのような結末を迎えるのだろうか。
 
「大体この国の人間は睡眠を軽視しすぎなんだよ」とネロは言う。もちろん、作中における彼の言葉は、羊子に向けられたものだ。しかし、読んでいると、胸をグサリと突かれた気になるはず。忙しく毎日を過ごしている方ならば、なおさらだ。じゃあ自分の生活スタイルはどうだろう? 働き方に問題はないだろうか??こんなふうに、ついつい自分自身を見つめ直したくなってくる。
 
エナジードリンクやブラックコーヒーを片手に、夜更けまで仕事に追われたことがあるような方は、『はたらけ!睡魔さん』をぜひ読んでみてほしい。1巻完結している作品なので、忙しい仕事の合間にもサクッと読める。まさに、ハードワーカーにはうってつけな漫画だ。
 
 
はたらけ!睡魔さん 分冊版/嶽まいこ 祥伝社