やがて変わりゆく友情を描いた『金のひつじ』は、映画『スタンド・バイ・ミー』を超えるかもしれない。

レビュー

小学校の頃、毎日のように遊んでいた友達と今も頻繁に連絡を取っている人はいったいどのくらいいるのだろう。中学受験や高校受験で離れてしまったかつての友人たちは、彼らのいる場所でコミュニティを作り、そして私たちは進学した先の学校でコミュニティを作ることになって、そのコミュニティ同士が交わることがなければ、だんだん連絡の回数も減っていき、いずれは疎遠になってしまう。それは大人になった今の自分たちにも言えること。小学校の頃にあれほど仲の良かった友達の「『何人』と今も連絡を取っていますか?」というイジワルな質問をたまにしてしまうのだが、うーんと唸る相手に目を向けながら、困らせてしまったことをいつも反省している。

金のひつじ
©Kaori Ozaki/講談社

連絡を取らなくなることは何も進学に関することだけではなく、引っ越しに伴って、違う土地に行ってしまった友人もそう。最初のうちは頻繁に連絡を取り合うものの、テキストや声だけで、嬉しい気持ちや悲しい気持ち、悩んでいることを共有することはとりわけ難しい。遠距離恋愛のカップルが別れやすいというロジックも、目前に存在していない相手と会話をすることから生まれる気持ちの乖離から来るものだと思えば、同じような問題が根底にある気がするのだ。それが幼い頃の友情なら、尚更に。

『金のひつじ』は、この物語の行く末を示唆しているようなダークでドープな影に覆われているシーンから始まる。

6年ぶりに「その街」に帰ってきた女子高生、三井倉継(みいくら・つぐ)は、かつての仲良しグループと再会を果たし、全員が同じ高校に通っていることに感動を覚える。もちろん継も同じ高校に編入することになる。漫画家を目指していた男友達の空(そら)、成績優秀でイケメンの勇心(ゆうしん)、もうひとりの女の子でマメな性格の朝里(あかり)。止まっていた時間が動き出したかのように、4人の関係はあの頃のままだと、何も知らない継はそう思っていた。

でも、変わらない関係なんてあるはずがない。

翌日学校にいくと、優心は昔と同じように話しかけてくれるが、周囲からは「不良なのに……」という声が聞こえてくる。しかし、継はそのことを理解することができない。それから4人で遊ぶようになるものの、優心と空の間に流れる空気はいじめっ子といじめられっ子のそれだし、なんの気ない継の一言から朝里を怒らせてしまうも、継はなぜ朝里が怒ってしまったのか理解することができない。仲の良かった4人の関係は、6年という歳月のなかで、大きく変わってしまっていた。あの頃なんとなくわかっていた相手の気持ちは、成長するにつれて理解できなくなってゆく。

4人で集まった次の日から、継はいじめの対象になってしまう。友人の朝里はそのいじめの加害者として加担することになる。クラスからハブられる継をようやく心配するようになった朝里は自責の念にかられ、もう許してあげようとするも、自分の好きな優心と仲良くしている姿を見かけて、さらにいじめを加速させることに。

優心が空を虐めていることに気づいた継は、変わってしまった優心をそれでも信じながら、本当に虐めているのかと尋ねるも、もうあの時の自分たちではないという答えが返ってくる。それははじめて、優心が継に明確な敵意を向けた瞬間でもあった。

そしていじめに耐えきれなくなった空は、練炭での自殺を試みる。

ふと、ある映画を思い出したのであらすじを書き記そう。映画『スタンド・バイ・ミー』の主人公・ゴードンは、親友の死を新聞記事で見つけ、小説執筆のため、幼い頃の回想をすることから物語は幕をあける。当時仲の良かった友人たちと進路もバラバラになり、だんだんと疎遠になったまま、みな大人になって付き合うこともなくなっていった。「私はあの12歳の時に持った友人に勝る友人を、その後二度と持った事はない。誰でもそうなのではないだろうか?」と書き残して小説は締めくくられた。

私もあの頃に持った友人たちとはみな疎遠になってしまったが、あの純粋な時期を共に過ごした友人を持つことは、この先もおそらくないだろう。『金のひつじ』は疎遠になった友人と、関係性が変わってしまった友人が出てきて、主人公に「人は変わる」という真理を残酷に突きつける。今はまだ各々の距離感に戸惑い、小さな軋轢から、いじめる、いじめられる関係になってしまったけれど、12歳の時の、あの頃の友達を取り戻すために主人公は動き出す。

青春をテーマにした再生と未来の物語。過去を振り返るのではなく、未来を取り戻す物語。これはもしかしたら、大切なものを失い、後悔を残して終わる『スタンド・バイ・ミー』を超えるんじゃないか、そう思っても許される可能性を秘めている。
続く2巻ではさらにティーンエイジャーたちの葛藤が描かれていて、これから続いていく『金のひつじ』という作品に刻まれる青春の一幕、とても楽しみである。

金のひつじ/尾崎かおり 講談社