不良×ケンカ×茶道部!?異色の茶道漫画『お茶にごす。』が異常に癒される

レビュー

「茶道漫画」と聞くと、うっかり「何やらおてんばでちょっぴりドジだけれど、まっすぐで一生懸命な女子高生がお茶の道を極めて行く」漫画を想像してしまう自分がいる。多分これはものすごい偏見なのだけれど。

しかし、最近その偏見をぶっ壊されるような漫画に出会った。

「悪魔」と呼ばれるほどの強さを持つ不良少年が、茶道部に入部する漫画『お茶にごす。』だ。

「悪魔」と呼ばれた悲運な少年

お茶にごす。
©西森博之/小学館

主人公の船橋雅也(ふなばし まさや)は、その強面の風貌のせいでむやみやたらとケンカを売られてしまう、悲運な人生を送ってきた高校1年生。

圧倒的なケンカの強さで相手をことごとく打ち破ってきたことから、不良たちから恐れられ、中学生の頃には「悪魔(デビル)まークン」と呼ばれるほどだった。

雅也の本当の姿は、心優しく暴力を好まない少年である。しかし、高校に入っても雅也は不良たちから目を付けられて、登校初日の通学中に絡まれてしまう。

「よせ、落ち着け」と相手をなだめようとした矢先、たまたま近くを通りかかった同じ高校の新入生・浅川夏帆(あさかわ かほ)が巻き込まれそうになったのを助けるために、ついつい雅也は相手をノックアウトしてしまう。

「この暴力の連鎖を断ち切って平穏に暮らしたい」と切に願う雅也は高校入学を機に、小学生以来の親友で悪友の山田航(やまだ わたる)に「暴力からの卒業」を誓うが……。

『お茶にごす。』は、そんな雅也や山田の日常を描いた、西森博之先生のほのぼのハートフルコメディ漫画である。

最強の悪魔と「茶道」の出会い

開架高校に入学したての雅也は、部活動に入るために新入生歓迎活動で賑わう校庭を歩くものの、その悪魔的な見た目の怖さから全く声をかけられなかった。

しかしそんな中、唯一雅也に声をかけてきたのが茶道部の部長、姉崎奈緒美(あねさき なおみ)だった。

「こんなの入部させたらダメですよ」とブーイングする周りに対し「仮にも茶道に携わろうとするものが、人を見た目で判断してはいけませんよ」と優しくたしなめる部長の姿に心を打たれた雅也は、その場で茶道部に入部することに決める。

ようやく自分を外見で判断しない人間に出会えた雅也だったが、実はここからが波乱の連続で。

同じく茶道部の新入部員で登校初日に雅也に助けてもらった夏帆は、彼の暴力を目の当たりにしたこと、「悪魔まークン」の伝説を耳にしたことから雅也を「悪い奴だ」と思い込み、茶道部から追い出そうとする。冷静に考えるとめちゃくちゃかわいそうかよ ……助けてくれたのに……。

夏帆から「何かやらかしたら追い出す」と宣言されてしまった以上、部長の大らかさに憧れ、彼女の側で茶道を学びたいと思う雅也は今まで以上に不良たちに絡まれないように気をつける。

けれど、あまりにも有名な「悪魔まークン」を打ち破って新たな伝説を作ろうとする輩や、過去に雅也に負かされた後輩の仇を取りにくる輩など、雅也の元には次から次へと不良たちがやってくる。

「優しさの道」を極められるか?

基本的にはコメディ漫画なのだが、たびたび描かれる雅也の葛藤や苦悩が、この作品の見所の一つである。

雅也は、自分のためには決して暴力は振るわない。

しかし、誰かを守るためなら何のためらいもなく、完膚なきまでに相手を撃退してしまう。

のちにその優しさと強さが原因で茶道部を追放される危機にも陥るのだけれど(かわいそう)、彼の「優しさ」にはある「秘密」があって。

『お茶にごす。』では物語が進むにつれて雅也の悲しい生い立ちが明らかになっていき、それが原因で「優しい男」として生きようとする彼の懸命な姿に、思わず感情移入してしまう。

雅也の本当の姿を知って心を開き始めた茶道部の部員たちと、仲間たちに助けられながら「優しい男」へ成長して行く雅也の姿には、きっと心を動かされるに違いない。

『お茶にごす。』は『今日から俺は!!』や『天使な小生意気』でも有名な西森博之先生の手がけた漫画で、2007年から2009年にかけて「週刊少年サンデー」で連載されていた人気作品である。

基本的に西森先生の作品は「ほのぼの」した日常系コメディ漫画が多く、この作品も例外ではない。

しかし『お茶にごす。』は私がこれまで読んだ西森先生のどの作品よりも、読み終えた後のほっこり感が強かったように思うし、非常にオススメの漫画だ。

あたたかい気持ちになれるような漫画を読みたい人は、ぜひ1巻から手に取ってみてほしい。

お茶にごす。/西森博之 小学館