不朽の伝説的漫画『タッチ』。大人のあなたにこそ読んでほしい作品の見所と魅力を語る

レビュー

今から37年前の1981年、今なお漫画史に残る名作が誕生した。

あだち充先生の漫画『タッチ』だ。

コミックスの累計発行部数は1億部を超え、アニメ化はもちろん、実写化もされた伝説的作品であるため、知らない人はほとんどいないと思う。

そんな『タッチ』だが、単なる野球漫画だと思っていないだろうか。スポ根漫画だと敬遠していないだろうか。

もしそうであれば、それは「全くの誤解である」と言いたい。『タッチ』は、ただの野球漫画でもスポ根漫画でもない。あまりにも純粋な愛を描いた作品なのだ。

あだち充先生が描いた不朽の名作

タッチ 完全復刻版
©あだち充/小学館

上杉達也(うえすぎ たつや)と和也(かずや)は双子の兄弟。


↑こちらが達也


↑こちらが和也

成績も良く野球部のエースとして活躍する弟の和也と、不真面目で何事にもだらしがない兄の達也。対照的な2人だが仲は良く、和也は兄である達也のことを慕い、達也は優秀な弟の和也を誇りに思い、尊敬していた。

彼らと幼馴染の浅倉南(あさくら みなみ)の3人は、幼少期の頃からいつも一緒にいた。

しかし歳を重ねるにつれて、彼らは互いに男女として意識しあうようになる。

「甲子園に連れて行ってほしい」という小学生時代の南の夢を叶えるため、和也は野球部に入り、血の滲むような練習を重ねた結果、中学1年生にしてピッチャーとしてチームを勝利に導くようになる。その後、高校入学後にもエースとなり、周りからは「天才」と評される。

達也も、南のことが好きだった。でも、和也を大切に思う気持ちもそれと同等、もしくはそれ以上なのである。

三者三様の想いを胸に、彼らはこれまで通りの関係ではいられないことに気が付き始めるのだけれど……。

『タッチ』は、高校野球をテーマに3人の恋模様が描かれている青春漫画だ。

ただの「スポーツ漫画」ではない?

『タッチ』を人に薦めたとき、ガチガチの野球漫画だと思って敬遠されることがよくある。無理もない。私も最初はそうだった。

あまりにも野球のイメージが強すぎるこの作品だが、意外と野球の要素はそこまで濃くない。ルールを全く知らなくても楽しめるし、どちらかと言えば野球よりも、主人公の達也と、彼を取り巻く人たちの成長や心の変化にフォーカスを当てている。

こうした理由から、私は『タッチ』を「スポーツ漫画」だと思ったことはない。野球に興味が一切ないという人でも読みやすい作品なのだ。

一見チャランポランで何も考えていないように見える達也だが、実は幼い頃から、南と和也が喜んだり褒められたりするのが、自分のこと以上に嬉しかった。

そのため達也は自分が「ダメな兄貴」を演じることで和也を引き立てたし、「和也とお似合いだ」と周りに言われてきた南に対しても、わざと突き放すような態度を取っていた。しかし南への恋心を自覚してからは、南と和也に対しての愛情の間で、激しく葛藤するようになる。

『タッチ』の読みどころは、単純にストーリーが面白いのはもちろんのこと、登場人物たちの微妙な関係性や、感情の機微の部分にあると思う。

大人になったあなたにこそ読んでほしい作品

『タッチ』を初めて読んだ中学生の頃、面白くて全巻一気に読んだものの、どこか達也に対して「つかみどころがない」という印象を持ったし、彼の言動に頼りなさや、軽薄ささえ覚えた。

しかし大人になってからもう1度読み返したとき、その受け取り方は大きく変わった。

達也は和也を、そして南を心から愛していて、その言動は全て、彼らのことを1番に考えてこそのことだったんだと気付いた。不器用だったかもしれないけれど、それが彼なりの愛し方だったんだと思う。

『タッチ』の連載終了は1986年。今なおテレビなどで話題に上がることが多いにも関わらず、今から32年も昔の作品だというから驚きだ。大人になってから読み返したとき、この作品が今でも愛され続ける理由がわかったような気がする。

32年経っても、今もなお色褪せない。古臭さも全く感じない。

この作品を読んだ人は必ず「最高だよね、タッチ」と言う。未だに数多くのファンを持ち、今読んでも「純粋たる愛」について教えてくれる『タッチ』は、やはり名作中の名作だと認めざるを得ない。

タッチ 完全復刻版/あだち充 小学館