「世にも奇妙な物語」好きに伝えたい!ゾクッと感がたまらない短編集『ユートピアズ』

レビュー

ユートピアズ
©うめざわしゅん/小学館

私はホラーが苦手だが(お風呂や寝る前に怖いシーンを思い出してしまう)、秘密結社を想像したり、人間の怖さにゾクッとさせられたりする話は大好物だ。

「世にも奇妙な物語」(フジテレビ系列)
「やりすぎコージーの都市伝説」(テレビ東京系列)
「週間ストーリーランド」(日本テレビ系列・2001年に放送終了)

これらの番組が好きな(もしくは好きだった)人に、ぜひ読んでほしい漫画がある。
うめざわしゅん先生の『ユートピアズ』だ。

本屋の店頭で初めてこの表紙を見たとき、その不気味さにゾクッとして一度目を離した。黒髪の女性の顔面に埋め込まれたように在る亀の甲羅のようなもの。のっぺらぼうにも見えるその女性は目が描かれていないにも関わらず、こちらを見つめているようだった。店内を一周した後、あの不気味さが頭にこびりつき怖いもの見たさにレジに持って行った。
あのとき意を決して購入して本当によかったと思う。まさに社会の怖さ、人間の怖さを描いたおもしろい作品の数々だったからだ。

設定が全部おもしろい。

『ユートピアズ』は9つの話からなる短編集であり、とにかく全部の設定がおもしろいことが魅力だ。

第1話の「ナオミ女王様に仕えた日」では”公認女王様”(=「M系性的困難者」のために働く、国家に認定された女王様のこと)候補・ナオミ女王様を育てるため、ボランティア奴隷であるクイーンウォーカーとして奮闘する日々を描く。

この話では、”女王様”がまるで”盲導犬”のように描かれていると感じた。(「クイーンウォーカー→パピーウォーカー」や「M系性的困難者→視覚障がい者」など)また、”女王様ブーム”により増えた野良女王が保健所に連れて行かれるシーンでは”ペットブーム”で起きた飼育放棄などの裏の部分を風刺しているようだった。(この漫画の初版発行は2006年。某CMがきっかけでチワワが流行っていた頃にもリンクするから余計にそう感じる。)ああ、第1話目からインパクトがすごい。

第4話の「チューブ」では世論の傾きによって政治が変化し、国が国民の「安全・健康」を管理するようになる話だ。12年間植物状態だった男の目が覚め、警告や標識ばかりの世の中(タクシーのボンネットに「乗車はあなたにとって交通事故による死亡の危険性を高めます」と書いてあるほど)にどう対応していくのかが見所だ。

他にも、歩くという概念が存在しない世界での青春物語「センチメンタルを振り切るスピード」やボケとツッコミしかいない世界を描いた「どつきどつかれて生きるのさ」など、すべて読んだ後に語り合いたくなるくらい現実世界とのずれのポイントが秀逸だ。

「世にも奇妙な物語」の原作にもなった物語「ヘイトウイルス」。

タイトルにもある「ユートピア」。「ユートピアはなにか」と聞かれて「理想郷」と答える人は多いと思う。
その由来である、16世紀に出版されたイギリスの思想家トマス・モアの著作「ユートピア」。現実社会から隔離された架空の島である「ユートピア」は理想郷とされ、みなが平等に過ごせる。それは一見差別も格差もない、まさに理想郷だ。そして同時に、画一的な管理社会とも言える世界だ。

この漫画ではユートピア的な世界を描き、それがもたらす負の側面を巧妙に描いている。
(ディストピアとも言える。)

それを問う作品の一つに第7話「ヘイトウイルス」がある。
この作品は2012年「世にも奇妙な物語」において、草彅剛主演で実写化された。

舞台は未来世界。人間の恐怖、不安、憎悪はウイルスによるものだと判明し、そのウイルスを死滅させるワクチンが開発される。以来地球上では争いや差別が消え去り、戦争も核兵器も根絶しユートピアを築いているという設定だ。

核兵器根絶から10年、6年ぶりにヘイトウイルス発現者が発見される。発現者のH少年は父を亡くし、母と叔父(父の弟)と暮らしていた。H少年は父の幽霊が叔父を憎めと訴えかけてくるため、叔父を殺そうとしたという。しかし実際は、ヘイトウイルスの発現者は叔父であり、H少年の母に好意を持っていた叔父はH少年の父を疎むようになり、ついには殺したのだった。ヘイトウイルスの発現者は叔父であり、叔父からH少年へと感染していた。これはつまり、憎しみが連鎖して起きた悲劇ということである。

この悲劇はいずれもヘイトウイルスが原因となった行為であるということで、ワクチンを打たれた家族はふたたび円満となる。憎悪による行動は、またしても社会から根絶されるのだった。

しかし物語はここで終わりでなく、ヘイトウイルスには驚くべき秘密がある。これを知った時、空いた口が塞がらなかったのでぜひ最後まで読んでほしい!

憎しみのない社会はいいものだと思う。
だが、次のシーンを見て欲しい。

まずは事件の真相が判明した時の女性刑事の呟き。

次はワクチンが投与された後の家族。

気分が悪くなるような違和感を感じた。そこには、ルールはあってもモラルがない。感情というものが第三者によって操作されているように感じる。

最後にあなた自身が問われるはずだ。

「さぁ、どっちだ?」と。

ああ、なんて、すごい漫画を描くのだろう。うめざわしゅんという人は。

一冊読み終わり、もう一度あの不気味な表紙を見つめる。
もしかしたらこの表情を見ることができない女性は、個の存在を認識することがなくなった社会を表しているのかもしれない。役所から数字で管理される市民、顔を合わせたこともない隣人、知らない人がつけた星の数で無意識に評価してしまう自分……。

果たして私は一人の人間として意見を持ち、生きているだろうか。

これは、社会と個人を考えるきっかけにもなる1冊だ。

ユートピアズ/うめざわしゅん 小学館