ヴィレヴァンで青春時代を過ごした大人に。思い出せトキメキ!『恋文日和』

レビュー

恋文日和
©ジョージ朝倉/講談社

遊べる本屋「ヴィレッジヴァンガード」は私の大好きな本屋の一つだ。(愛知県出身としては発祥の地が名古屋ということが誇りである。)

小学校の時は見てはいけないような大人の世界にドキドキしながら、中学校の時は雑貨を前に友達とゲラゲラ笑いながら、高校の時は好きな人と趣味が合うかソワソワしながら、大学の時は面白い漫画をリサーチしにワクワクしながら遊びに行っていた。

私の青春時代にはヴィレッジヴァンガード、略称ヴィレヴァンがそばにあったと言っても過言ではない。
そしてヴィレヴァン好きなら想像できるだろうが、よく少女漫画の棚に河内遙、ねむようこ、魚喃キリコ、ジョージ朝倉など、ちょっと背伸びしたい少女たちが読む少女漫画たちが並んでいる。書店では「大判コミック」という枠で様々なジャンルが混ざり合って置かれていることが多いがヴィレヴァンではよくまとめられていたのである。

りぼん上がりの中学生だった私はそこで初めてジョージ朝倉先生の『恋文日和』に出会った。読んで驚いた。「まさか少女漫画に暴力シーンが出てくるなんて!」「まさか高校生が刺青を入れているなんて!」そんな破天荒な漫画にショックを受けつつも、純粋すぎるシーンの数々に心を奪われたのである。

恋文だから超ピュア。読んで体感する青春。

ジョージ朝倉といえば、少女漫画なのに女子高生がタバコを吸っていたり、やたらとショーケンが出てきたりとアウトロー感漂う漫画家だ。

ゆえに渋くてイカついイメージがあるが、『恋文日和』はその名の通り「ラブレター」がテーマのオムニバス集である。
クラスで「やんちゃ」なグループに所属するような登場人物たちが恋文をめぐって心揺さぶられるのは、「いつも無愛想な彼が雨の日に捨て猫を助ける」みたいなギャップがある。

そして「恋文」は「好き」という気持ちを伝えるものだから「恋文」と呼ぶ。その手紙はどうしても感情がストレートにあふれるものとなりその文章にドキドキさせられるのだ。

第1話は「図書室のラブレター」。
図書委員のリリコが知らない人からラブレターをもらい、図書館の本を介して文通をするという話だ。

「君の世界を少しでも暴きたかったんです。僕だけこっそり。」
ラブレターを読んで目を潤ませ頰を赤らめるリリコ。この表情から予感する恋の始まりに私の胸は高鳴る。

この話は次の一文から始まるのだが、その始まり方も好きだ。

このように痛々しい気持ちやクサイ表現をド直球に投げてくるのもジョージ朝倉先生の得意とする所だ。喜怒哀楽を120%でぶん投げる。そうやって「大人の理性」というブレーキが壊れているからこそ青春時代の不器用だった頃を思い出すのだ。

第2話は「あたしを知らないきみへ」。
主人公・文子が屋上で拾ったラブレターの差出人は悪い噂がひっきりなしの増村だった。

名を告げず文通相手となる文子が増村に惹かれていく様子がピュアに描かれる。しかしきっかけは増村の「ラブレター」だ。彼は好きな人にラブレターを書いていて、文子はそれを知っている。それがなんとも痛くて苦しい。

ピュアで痛々しいほどの青春を感じたいなら断然この漫画をオススメする。

これが一番好き!「イカルスの恋人たち」。

『恋文日和』の中で……いや、ジョージ朝倉先生の作品の中で私が一番好きなのが2巻に収録されている「イカルスの恋人たち」だ。

兄が死の直前、弟に残したビデオレター。

兄の名は康一。ガリ勉・堅物・秀才だった彼は病気によって死んでしまう。一方弟の健二はバンドや映画研究部などやりたいことをやる自由奔放な高校生だ。
2人の仲は超がつく程悪かった。

しかし康一は死後、健二にあるビデオレターを託す。それは康一が死の直前、恋人となった女性・玉音(ユーイン)に宛てたものだった。玉音は中国サロン(つまり風俗)で働く女性。綺麗な歌声が魅力的だ。

康一は自分の生存率が15%と知った翌日から行方不明になる。その間にできた恋人が玉音だ。ガリ勉で友達もいなかった康一に恋人ができたことにも驚きだが康一が死を前にしてとった行動はすべて破天荒すぎて目を疑う。
女を殴るわ

机を投げるわ、

とにかく大声で叫ぶ。

これぞジョージ朝倉節。ちょっとヤバい人を勢いで描く。
しかしページをめくるごとに、ヤバい行動を連発していた康一の心が見えてくる。康一の死後、玉音を通して健二は康一という兄の存在を見つめられるようになるのだ。

ラストシーンはとても美しく、何度読んでも涙が出てしまう。『恋文日和』を読み返そうと思う時、いつも真っ先に思い出すくらい魅力的なシーンだ。

そして作中で玉音が歌う「イカルスの星」。これは越路吹雪の歌である。この漫画を読んだ後、ぜひこの曲を聴いてほしい。歌詞と物語をリンクさせることで作品を二度楽しめると思う。

『恋文日和』は全3巻、名作ぞろいである。
 (3巻の「ホワイトタイガー・イリュージョン」や「METAL MOON」もイイ!)

ジョージ朝倉先生の漫画は大人になったらなかなか味わえないピュアなトキメキがある。打算も理性も働かない、青春時代がそこにあるのだ。読んでトキメキを感じたら、今週末はヴィレヴァンで若返りホルモンを活性化させるのも良いかもしれない。

恋文日和/ジョージ朝倉 講談社