「◎◎ちゃん、あれ読んできぃや」「△△こそ読んでこいって」
鍵っ子だった小学生の時、放課後に通っていた学童保育の本棚の中に、子どもたちの度胸試しの素材になっているホラー漫画があった。
おそらく学童保育の先生の誰かが、自分の子どもが読んでいらなくなった漫画を持ってきたのだろう。
それは、たかだが6歳や7歳しかない子どもたちを恐怖のどん底にたたき落とすには十分な破壊力を持っていて、それを読んでしまった私ももれなく、当時から20年以上も経っているのにいまだに思い出す。
ただ、内容は鮮明だったにも関わらずタイトルまで覚えていなかったため、割と最近までその漫画がなんという作品なのかわからなかった。
しかし最近、ストーリーを思い出しながら「雛人形 ホラー 少女漫画」といったキーワードでググりまくってようやくその漫画が判明した。
『ガラスの仮面』の作者でおなじみ、美内すずえ先生の『妖鬼妃伝』である。
今回は『妖鬼妃伝』を紹介することで、過去のトラウマと向き合ってみようと思う。
デパートで開催された怪しい人形展で……
主人公の秋本つばさは、小学校以来の親友ターコと都心のデパートへ。

買い物後、ひょんなことから催事場で開催されていた日本人形展に足を踏み入れる2人だが、どうもこれが気味悪い。あまりに人形らしくないというか、むしろ人間を人形にしたようというか……。

なにか嫌な予感を感じたつばさだったが、これが虫の知らせだったのか……。

なんと鑑賞後にターコが行方不明になり、怪死を遂げてしまうのである。
死体の「髪の毛が一房切り取られている」という奇妙な点など、めちゃくちゃ気持ち悪かったのを覚えている。
イケメン霊能力者と一緒に謎解き
友人との調査を経て、ターコの死はとある団体に秘密があると確信したつばさは、ひょんなことから出会ったイケメン霊能力者、九曜さんとともにその渦巻く闇を解決しようと奮闘する。

THE☆少女漫画な王道イケメンである。
しかも盲目、なのに霊能力でスイスイ動ける。心も読める。
だからチョコレートパフェが好きなつばさの心を読んで「好きでしょう?」なんてのたまえる。
完璧である。
岡野玲子先生が描く『陰陽師』の安倍晴明しかり、CLAMP先生の描く『東京BABYLON』の昴くんしかり、いにしえより霊能力を駆使してきた一族とか当事者はこうでなくちゃいけない。

行動力が高いつばさと、霊能力の九曜さんコンビは、はたして不気味な黒幕を見つけ出し、ターコの死の原因を知ることができるのか……?
漫画カルチャーの重鎮さを感じる綿密なストーリー
今回読み返した時は、すでに小学生ではないので、さすがに「怖い」とは思わなかったが、ストーリー構成の緻密さがものすごいということを実感した。
ウオッと思わせるホラーシーンの静と動の盛り上がり方のバランス、デパートや地下鉄など、身近な存在を舞台にするシチュエーションの選択、作中でつばさが目の当たりにする異世界の不気味さ。
イケメン霊能力者と敵キャラ、実在の歴史上の人物も絡めながら続く一族同士の長い戦い……。
少女漫画のジャンルとは思えないほど設定の積み重ねが複雑すぎて「日本の漫画カルチャーすげえな」と読了後つぶやいてしまった……。
だってこの漫画、37年前の作品だよ?
小学生の頃のトラウマは、時を経て読み返したいま「漫画好きだけど、なかなか古い作品には手を出していないな」という人にもおすすめしたい一作になった。現代でも新しく感じるほどの綿密なストーリーを、ぜひ自分の目と脳で実感してほしい。

ちなみに「雛人形が怖い」タイプの人は子どもも大人ももれなく倒れそうになります!