『漫画は読みたいけど、10巻20巻出ている長編ものは少し疲れる。』
『ドラマチックな展開よりはしっとりした雰囲気や考える余地のあるストーリーが気になる。』
そんな漫画をご所望のアラサー女子のみなさんに向けて、手軽に読めて、かつ繰り返しページを開きたくなる短編マンガを紹介させてください。
突っ走ってきた人生に小休止して結婚に家族、キャリアなどなど、今後の人生の棚卸しのヒントが詰まっている…かも?
10代の痛みを思い出す『ハピネス』
まず紹介するのは、昨年映画化された『帝一の國』でぐんっと注目度があがった古屋兎丸さんの短篇集『ハピネス』です。
独特な世界観で描かれる物語にはどれも「痛み」を感じます。
チクッとした痛みからズキズキと心臓が締め付けられる痛みまで
青春時代の荒くむき出しの感情に触れることのできる1冊。
表題と同名タイトルの『ハピネス』をはじめ、6編の物語が収録されています。

私のお気に入りのストーリーは『雲のへや』。
勉強ができず性格も暗い女の子、山ちゃんが主人公の物語です。
街でたまたま見つけたへんてこな建物。改装可能なワケありマンションに住むことが、彼女の大きな変化のきっかけに。
前半と後半で山ちゃんが変わっていく過程が苦しく、かわいいのです。
1話1話の繊細な心理描写に、心に閉じ込めていた痛みの記憶が引き出されるかもしれません。
誰とのふたりきりを想像する?『式の前日』
続いて紹介するのは『式の前日』
あらゆる関係性の「ふたりきり」を切り取り、ていねいに描いた短篇集です。
短編集の中の一押しストーリーはタイトルにもなっている『式の前日』です。
明日は、いよいよ結婚式。結婚をひかえた男と女は少しずつ心の準備を整え、式に臨むけど……。
私は未婚の身ですが、結婚式を目前にした主人公の少しのよそよそしさと恥ずかしさ、緊張感の入り混じった会話の流れにリアルさを感じました。
二人の中に流れる穏やかな雰囲気と、お互いを解り合っていて思い合っているこそ生まれる会話の間。
そして、結末を読んでからやっと知る、物語の中の二人の表情と言葉の意味。
読み終わった後、きっともう一度、この物語を辿っていきたくなるはず。
短編集の中のどの「ふたり」にも、それぞれ秘密があります。
秘密を知ってからでも読みたくなる素敵な短編集で、読み進めて気づく発見が気持ちよく、ホッとする物語ばかりです。
家族のあり方を考えるきっかけに。『シロがいて』
最後に紹介する作品は『シロがいて』です。
本作の著者は、『娚の一生』で有名な西炯子さん。恋愛ものが多い西さんですが、本作は珍しく日常を題材にしたお話です。
ある日、自宅に入り込んできた猫、シロの成長と並行して流れていく4人家族の日常を描いた物語。
1冊でひとつの作品を描いているのですが、シロがきた夜から17歳(老猫!)まで年を重ねていく様子がひとつずつストーリーになっているので短編としてご紹介しています!
受験、恋愛、反抗期、結婚、不倫。
家族の日々のイベントの中にシロもいる。なぜなら家族だから。
あくまで自然に、家族としてペットを描く漫画はほかに見たことがありません。
時の流れと共に、変わっていくものと変わらないもの。小さな幸せが丁寧に丁寧に描かれています。
厳格で真面目なお父さん、少し抜けた会話の返しにお父さんをいつも拍子抜けさせるお母さん、思春期で斜に構えているお姉ちゃん、いつもトロい弟。
みんな特別なキャラ付けがされているわけではなく、ただ『シロがいる』ことをテーマに、日常を切り取っていく。
「そういえば家族ってなんだろう」と暖かい気持ちとともに、ふと思わせる一冊です。
どの作品もパラリとページをめくる毎に、自分の生き方と照らし合わせてしまうはず。
あなたの日常の気持ちの変化によって、読み返すたびに物語の受け取り方が変わると思います。
何度も何度も読み返したくなる3作品です。
『ハピネス/古屋兎丸 小学館』
『式の前日/穂積 小学館』
『シロがいて/西炯子 小学館』