ありそうでなかった!古代中国が舞台の宦官ファンタジーBL『日野晶』作品3選

まとめ

実写映画化された人気漫画・キングダムの影響で注目を集める古代中国。その中にも登場した宦官なる存在をご存知でしょうか。宦官とは、去勢して後宮に仕えた男性のこと。手術シーンを想像しただけでも悶絶ですが、『日野晶』先生の宦官BLシリーズでは、窮地に陥っても決してへこたれない宦官の強かな姿が描かれており、作品全体に漂うユーモアと相まって恐怖心はほぼゼロ。歴史に翻弄されながらも幸せを望んでもがく彼らの健気さ、可愛らしさの虜になること請け合いです!

愛が重すぎるキレ者皇子×褐色隻眼の元兵士『帝國の宦官』

帝國の宦官【電子限定かきおろし付】
©日野晶/libre

皆様は宦官と聞けばどんなキャラクターをイメージしますか? どことなく中性的で底知れないミステリアスな雰囲気に包まれている影の支配者…自分は勝手にそんな想像をしていたのですが、宦官BLの開拓者ともいうべき日野晶先生の描く彼らはまるっきり違っていて驚きました。

例えば『帝國の宦官』に登場する宦官・雀(じゃん)なんて元はバリバリの兵士です。運悪く捕虜にされ、そこで出会った皇子・右弦(うげん)の命令により問答無用で去勢。

敵国兵士→捕虜→宦官というとんでもない悲運に見舞われますが、彼は恐るべき順応性の高さで見事宦官ライフに溶け込み始めてしまうのです。他の宦官たちと仲良くお茶をしたり、朝の鍛錬に勤しんだり…。ただ、どうしても慣れないことがひとつだけ。

それは右弦に組み敷かれ、めちゃくちゃに愛される夜伽の時間…♡

今まで味わったことのない未体験の感覚に戸惑う雀に対して、「可愛そうにねえ。もう雀にはないんだもんね?」と言葉責めを浴びせる右弦。なぜ彼はこれほどまでに雀に固執し、狂気ともいえる愛情を注ぐのか。その理由は予想外に淡い物語ですので乞うご期待。詳細は話せませんが、とにかく雀一筋の溺愛レベルが甘すぎてむせそうになります。しかも、さぞかしもてはやされるであろう容姿端麗で聡明な皇子の口から「女…?比べるべくもない…」なんて言葉まで聞けるのですから、BLファンとしては嬉しいかぎり!


純愛という名の戦において狡猾な軍師や宰相の出番などまったく必要なし。エキゾチックな雰囲気漂う褐色隻眼の元兵士が宦官に変貌する意外性に萌え、彼にだけ重厚な愛を注ぐ皇子の狂気に悶え、受け攻めいずれも一択の清らかなる永遠性を祝わずにはいられません。

堅物なオジサマ皇帝×放っておけないダメかわ宦官『皇帝と宦官』

皇帝と宦官【電子限定かきおろし付】
©日野晶/libre

女官よりも体力があり后妃を妊娠させる心配がないことから、古代中国の後宮で重宝された宦官。平民でも働ける上、運が良ければ出世できる可能性に惹かれて、やがて自ら志願する者まで出てきたそうです。

本作の主人公・海燕(かいえん)もまたその一人。「アレを切ったら宮廷で働ける。住み込みとお給料を前にして俺のがなんぼのものか」などと割り切り、歌と踊りを披露する学芸官として仕えています。ところがいざ働いてみると、何をやらせてもパッとしないダメかわ男子であることが判明…

でもまぁ、運命の人・泰藍(たいらん)と出会えたのも彼のそんな才能(?)によるところが大きいのでいいんですけどね♡ 皇帝でありながら身分を隠して市井を見て回る泰藍は、飾らず裏表のない海燕の性格に惹きつけられ…

めでたくゴールイン♡ 出来損ないといわれてきた海燕は一夜にして大出世。正式に皇帝陛下の情人となります。学芸官の業務はすべて免除され、自分専用の部屋が与えられる夢のような日々。ですがここは愛憎と権力が渦巻く後宮です。花形学芸官であり、海燕の教育係でもある麗琳(れいりん)をはじめとする様々な欲望が見え隠れし、海燕は知らず知らずのうちにその渦中へと投げ込まれてしまい…

男とも女ともいえない宦官の不思議な魅力に加え、彼らに振り回される王族たちの狂愛が迸る本作。めちゃくちゃに愛される一方で「寵愛なんてなくなるものじゃん。そんなの…」と呟く海燕や、「宦官になった時点で我々などとうにみじめじゃないか!」と堪らず叫んだ麗琳のセリフから、どうすることもできないカーストラブの悲哀も垣間見えて複雑な感情を抱きます。

正義感あふれる皇帝の弟×国を退廃させる狡猾宦官『傾国の宦官』

傾国の宦官【電子限定かきおろし付】
©日野晶/libre

ラストはこれぞ自分のイメージしていた宦官そのもの!と叫ばずにはいられない悪徳宦官が主役の話。『帝國の宦官』、『皇帝と宦官』からさらに時は流れ、都は治安が悪化し、民衆は貧困で苦しんでいました。その原因となっているのが、絶世の美貌で皇帝を誑かしている宦官・虞淵(ぐえん)です。

紅をさし、女性の姿をした虞淵は後宮ばかりか王朝までをも掌握して好き勝手に贅沢三昧。陽明と名乗り、湯屋で出会ったワイルドイケメンを逆ナンしたのもほんの気晴らしに過ぎませんでした。実はその男こそ臣下たちの支持を集める皇帝の弟・泰山(たいざん)であることを知らずに…

最初は遊びのつもりだったのにいつしか本気で想い合う虞淵と泰山。その矢先、お互いの正体が明かされたシーン以降は怒涛の展開にドキドキハラハラ! 3作品の中でも一番シリアスモードが多い分、最後まで読む手が止まらなくなってしまいます。

果たして絶世の佳人・虞淵は本当に毒夫なのか? 敵対せざるを得ない二人の仲はどうなるのか? その答えは読むしかない。時代と権力に翻弄された一人の宦官の軌跡をじっくり見守って共に泣こうじゃありませんか!

まとめ

エキゾチックな褐色隻眼宦官、ドジっ子のダメかわ宦官、危険すぎる美貌の宦官…皆様の推しは見つかりましたか? それぞれ好みが分かれるところですが、いずれも共通しているのは、どんなことがあっても生き延びようとするたくましさ。そして愛する人に見せる夜のエロ可愛さのギャップは宦官BLの醍醐味であります。(大切なアレがないのに快感に震える痴態もね!)

日野晶先生の宦官BLシリーズでは『帝國の宦官』の右弦の弟が『皇帝と宦官』の泰藍など、登場人物がリンクしているのも面白いところです。また、話の途中途中に用意された宦官コラム記事にも注目。テストには出ませんが驚きと発見の連続ですので、ぜひ熟読されることをオススメします。

帝國の宦官【電子限定かきおろし付】/日野晶 libre
皇帝と宦官【電子限定かきおろし付】/日野晶 libre
傾国の宦官【電子限定かきおろし付】/日野晶 libre