盛り上がってます。鑑賞作品選びの参考にもなる“映画漫画”3選

まとめ

「ガイドブック漫画」の新たな定着ジャンル「映画漫画」

実在のものや人、店、コンテンツを扱うガイドブックのような漫画が増えている。
もっとも顕著なのがグルメ漫画で、実在する店のメニューを紹介する漫画、外食ではなく家庭料理のレシピを大きく取り上げる漫画など、ストーリーの過程で「料理」を「紹介する」要素を持つ漫画のヒット作はピンとくる人も多いだろう。
こういった漫画は、「何かを紹介する」というフォーマット外の部分をどんなふうに作っているかで、読んだときの感覚がまったく変わってくる。

今回紹介するのは、実在の映画作品を扱った“映画漫画”作品。
このジャンルは、ガイド系漫画の中でも近年特に充実してきていると思う。
表現として漫画に近い部分もある(かつて、戦後日本漫画の黎明期を支えた大御所漫画家の多くは、そろって映画から強い影響を受けている)映画は、コンテンツのジャンルの中で漫画家が扱いやすい題材であること、また近年、電子配信を通じて既存の映像作品に触れることが気軽にできるようになったことが背景にあるのだろうと考えるが、漫画として楽しみながら、さまざまな映画についてちょっとだけ知ることができる作品が増えているのだ。
そんな中から、それぞれバラバラの個性を持った3作品をピックアップしたい。

マニアックなギャグから王道ロマンスまで。特徴的な3作

『邦画プレゼン女子高生 邦キチ! 映子さん』(服部昇大)は、「日ペンの美子ちゃん」の漫画を引き継いでいる作者ならではの、70~80年代少女漫画風のレトロな画風と、鋭い(?)ツッコミが冴えるギャグが特徴だ。

邦画プレゼン女子高生 邦キチ! 映子さん
©服部昇大/ホーム社

本作はその「レトロ少女漫画文法」を駆使して、マニアックな日本映画=邦画を愛する邦芳映子(くにより・えいこ)が、高校の「映画について語る若人の部」部長・小谷洋一(こたに・よういち)に、ひたすらマニアックな邦画の魅力を語りまくる漫画である。
なんといっても取り上げる映画のマニアックさが群を抜いており、本作で紹介されている映画をすべて観たことがあるという人は、映画ファンの中でもかなり希少なのではないかと思う。
爆発力の高いギャグ漫画であると同時に、ネット上の悪評ですべてを知った気になり、自分の目で判断しないことの弊害も実感する…なんて、ちょっとマジメに考えてしまう、秀逸な作品だ。

『おやすみシェヘラザード』(篠房六郎)はまた一風変わった設定の作品だ。

おやすみシェヘラザード
©篠房六郎/小学館

舞台は高校の女子寮。ごく普通の(?)女子高生・二都麻鳥(にと・あさと)と、絶世の美貌と色気を持ちながら、映画の説明をするのが下手くそで、そのレビューを聞いた人が睡魔に襲われてしまうという奇妙な性質を持つ謎多き先輩・箆里詩慧(へらざと・しえ)を中心に、おもに詩慧による(下手な)レビューを通じてさまざまな映画が紹介されていく。
取り上げられる作品自体は、2016年に大ヒットした『君の名は。』や根強いファンの多い『アウトレイジ』シリーズなど、メジャーと言っても良い作品も多い。だが、前述の設定、やたらとセクシーな詩慧と麻鳥の百合(未遂)描写、それらのために映画を紹介するくだりにも笑いが加わってしまう(それによって、一層その映画が気になってしまう)、「漫画としてややマニアック」な作品と言える。その分「こんな漫画読んだことない…」という感想をきっと抱かされる、個性的な1作だ。

『水曜日のシネマ』は、今回紹介する“映画漫画”の中では最も読み手を選ばない作品。

水曜日のシネマ
©Tao Nohara/講談社

レンタルビデオ店の新人バイトである主人公・奈緒は、映画に対しても超・初心者の18歳。そんな奈緒と、かつては自らも映画製作を志したレンタルビデオ店店長・奥田の淡い恋愛模様に絡めて、古今東西の名作映画について、そしてそれぞれの「映画」に対しての想いが語られていく物語だ。
冴えない中年男性×10代後半女子のじれったいロマンスは、それ自体「ありえなくもないかもしれない」ギリギリのラインのファンタジーであるように個人的には思うが、だからこそ、映画を通じて二人が距離を詰めていく過程はとてもドラマチックであり、二人が映画に対して抱く想いのピュアさが際立っている分、紹介されている映画をごく素直に「観てみたい」という気持ちにさせられる。

若者よ、漫画を読み、映画館へ行こう

レトロでマニアックなギャグ、百合?コメディ、王道ロマンスと三者三様の“映画漫画”を紹介させていただいた。
ところで、今回取り上げた3作品はすべて10代の女性が主人公だが、実際の10代女子のうち、頻繁に映画館に足を運ぶ人は多くないかもしれない。
筆者も実は、10代の頃はほとんど映画を観ていなかったが、大人になってから映画をよく観るようになった身としては、若い頃からいろいろな映画を観ておきたかった…としみじみと思う。映画を観る習慣がある今と、それがなかった頃では、確実に今のほうが、心が充実している。
映画産業の繁栄を願う意味でも、ふだんあまり映画を観ない人にも、これらの漫画をきっかけのひとつとして、ぜひ映画館に足を運んでみてほしいと思う。

邦画プレゼン女子高生 邦キチ! 映子さん/服部昇大 ホーム社
おやすみシェヘラザード/篠房六郎 小学館
水曜日のシネマ/Tao Nohara 講談社