ありえない設定が笑える!破天荒なアイドル漫画3選

まとめ

2010年代、日本のポップカルチャー史に強い熱狂を残したジャンルの1つとして、「アイドル」文化の盛り上がりは外せないだろう。
 
今や国民的アイドルの座を確立したAKB48グループ。
メンバーを入れ替えながらも、00年代から根強い人気が続くモーニング娘。
アリーナ・ドームクラスのライブを連発するももいろクローバーZの台頭。
先輩に続けと言わんばかりに、乃木坂46、Juice=Juice、私立恵比寿中学といったライバル・妹分グループも日々成長を続け、アイドルシーンの中心を担う存在へと変貌を遂げている。

 
しかし、そんな「アイドル戦国時代」という言葉が一世を風靡した2010年代も気づけば終盤。地下アイドルやご当地アイドルなど、様々な趣向を凝らしたアイドルが誕生していたのも記憶に新しいが、他のアイドルと差別化をつけるネタが難しくなってきたのか、アイドルブームも近頃は少々落ち着いた印象がある。
 
ここで、静かに勢いを見せているのが「アイドル漫画」の世界。
漫画だからこそ、現実のアイドルカルチャーのフォーマットの中にとんでもない設定を盛り込むことができるのが特徴的だ。
作中で描かれる破天荒なストーリーには「クソワロタ」しか感想が出ないことも多いが、ごくたまに「これはアイドルの本質を言い表している」と思えるシーンもあるのだ。
 
今回は、そんなありえない設定の破天荒なアイドル漫画を3つ紹介する。
 

女装アイドルが「カワイイ」でバトルする漫画『プリマックス』

 

プリマックス
©柴田ヨクサル・蒼木雅彦/集英社
 
『プリマックス』は女装した男子高校生3人組が「カワイイの星」を目指すアイドル漫画。
 
男子高校生が女装に目覚め「カワイイ」に次第に惹かれていく様子は、常軌を逸していて笑えくるが、同時に彼らが極めて真面目に「カワイイとは何か」を追い求めていく姿には決して笑えないリアルも感じるのだ。
 
”僕を心の底から惹きつけるものは どうしようもない程の 「カワイさ」なんだっ 僕の目指すものはっ 宇宙一の「カワイさ」なんだ‼︎‼︎‼”
 
真剣な表情で彼らはこう語る。そう。決してギャグなんかじゃないのだ。
あえてこういう言い方をすると、『プリマックス』は「カワイイ」をぶつけ合いながらしのぎを削るバトル漫画とも言えるだろう。
 
他のジャンルで例えてみれば、『幽遊白書』は、「霊力」で戦うバトル漫画だと言える。
修行で霊力を鍛え、試合では己の霊力と霊力をぶつけて戦う。
その「霊力」に当たるものが『プリマックス』では「カワイイ」なのだ。
 
「カワイイ」とは無縁な男子だからこそ、彼らは「カワイイ」の分析を欠かさない。
カワイイにはギャップが、母性が、感情が必要だと気づいていく様はまるで修行そのものだ。
 
そして、磨いてきた「カワイイ」を他のアイドルとの対バンでぶつけるのである。
 

 
『BLUE GIANT』や『BECK』など、音楽漫画の演奏シーンは「漫画から音が聴こえてくる」と表現されることがある。
ならば、『プリマックス』は「漫画が踊っている」とでも言えばいいだろうか。
 
漫画からどうしようもないほどのカワイさが伝わってくる。
女装とか男子とかもうどうでもいい!「カワイイ」こそが最強だ!
と叫びたくなる。そんな作品だ。
 

拉致されたアイドルがサバイバルする漫画『愛のバビロン』

 

愛のバビロン
©相原コージ/藤田かくじ/日本文芸社
 
続いて『愛のバビロン』を紹介する。
主人公「野崎花」が遊園地で突然何者かに拉致され、とある監獄に閉じ込められるところから物語は始まる。
 
「どこの海外ドラマだよ」ってくらいのトンデモ展開からのスタートなのだが、これはアイドル漫画。閉じ込められたのはアイドル養成機関、その名も「パンダの穴」。
 
パンダの穴で繰り広げられるのはトップアイドルになるための熾烈極める訓練や、メンバー間の陰湿ないじめ。
 
この作品もまた、カワイイ絵とは正反対のハードコアな内容なのだが、描いているのはアイドルの一つのリアルのような気がしてならない。
 
夢、ロマン、希望。
きらびやかなものばかりが見えるアイドルの世界にも、その笑顔の裏には血で血を洗うような努力が必ず存在する。
 
アイドルはいつだって、必死な稽古の上でステージに立っているのだ。
 
アイドルの数が増え、インフレ化が進む現代。
僕らはどうしてもアイドルの価値を見失いがちだ。
 
『愛のバビロン』を読めば「アイドルはすごい」と思えてくる。
アイドルへの敬意を思い出させてくれる作品だ。
 

ヤクザがアイドルになる漫画『Back Street Girls』

 

Back Street Girls
©Jasmine Gyuh/講談社
 
とある厳かな組織内。
とちった下っ端男3人衆が落とし前をつけるため、親分の命令で性転換手術と全身整形をするところから物語が始まるのがこの、『Back Street Girls』だ。
 
結成したアイドルユニットの名前は「ゴクドルズ」。
 

 
ライブ後に、日本酒を掻っ込むアイドルがいまだかつていただろうか。
 
中身はヤクザのおっさん、見た目は超絶カワイイアイドル。
このギャップに笑いが止まらない。
 
彼らはしょうがなくアイドルになっているため、ヤクザの魂や男としての矜持が捨てきれないのである。
 
とはいえ、ヤクザとアイドル、「仁義を通す」という点では共通しあう部分があるのだろう。彼らはアイドルを続けていく中で、女性としてアイドルとして次第に目覚めていく。
 

 
整形前のヤクザのオッサンの顔が背景に描かれてどうしようもなく笑えてしまう。
 
ここに描かれるのは「カワイくなりたい」「誰かに喜んでもらいたい」という人間本来の欲求なのかもしれない。
 
心はオッサンでも、「アイドルになりたい!」って願ってもいいじゃない。
『Back Street Girls』がアイドルの新しい可能性を切り開く作品であることは間違いない。
 
以上、破天荒なアイドル漫画3作品の紹介でした。
2020年代は、「アイドル漫画」戦国時代がやってくるのかもしれない_。
 
 
プリマックス/柴田ヨクサル・蒼木雅彦 集英社
愛のバビロン/相原コージ 藤田かくじ 日本文芸社
Back Street Girls/ジャスミン・ギュ 講談社